ビニールハウスの中は、みずみずしく、見るからに柔らかそうな緑の葉にあふれていた。
三重県松阪市の小泉寛美さん(62)のハウスでは、夏のスタミナ野菜、モロヘイヤの収穫が今年も四月二十日に始まった。「春先の寒さで(苗を植える)定植が遅れたけど、収穫は例年通り」と、寛美さんはほっとした表情を浮かべる。
松阪牛の産地、松阪市は、国内有数のモロヘイヤの産地でもある。二〇〇八年の農林水産省の統計では、三重県の出荷量は百二トンで、首位群馬県に次ぐ二位。その多くを松阪市内の農家が栽培している。
同市でモロヘイヤ栽培が組織的に始まったのは、約二十年前。冬から春に収穫するナバナの裏作にちょうどよく、当時の健康食ブームを追い風に、急激に生産者が増えたという。
寛美さんの父、昌三さん(87)が栽培を始めたのもこのころ。今は寛美さんが温度や水を管理し、品質の維持に心を砕く。
適温、適度な水分、適度な保水力のある肥えた土-この三つをそろえるのが、モロヘイヤ作りのこつだ。
暑く、乾いた中近東で盛んに作られていることから、乾燥や高温に強そうだが、水が不足し、高温過ぎると葉や茎が硬くなり、害虫が付きやすくなる。若葉の伸びも悪くなる。
取材した七日は、少し日が照っただけで、ハウスの中の気温がぐっと上がるのを感じた。時々、覆いを開けるなどして、適度な暑さを保つ。本来、手がかかる野菜ではないが、丹念に育て、茎も食べられる柔らかさに仕上げるのがプロの技。
「年ごとに状況が違い、勉強が必要。毎年、一年生ですよ」と寛美さん。昨年は、夏の少雨に苦しんだ。露地の株が台風で倒された年もある。「今年は順調に」と願う。
次々に出てくる若葉の摘み取りは、ハウスでは七月半ばまで、露地は六月から九月まで続く。摘むときに人さし指にはめる「桑爪」は、昔、この地で養蚕のための桑の栽培が盛んだったころ、桑の葉を摘むのに使った道具。道具から土地の歴史が見て取れる。
需要のピークの夏に向け、今年も長い収穫の季節が始まった。
出典:中日新聞