大ちゃん。
いつかは大ちゃんから「引退」の言葉を聞く日が必ずくるのだと、もう何年も自分なりに覚悟はしていた。
最初の怪我のとき。
バンクーバーが、終わったあと。
2011年シーズンが始まった直後。
そしてソチが終わったとき。
他にもイロイロ。
…でもね、覚悟なんてなんの役にも立たなかったみたいだよ。
諦められない。
大ちゃんほどのスケーターが、競技者としての人生に悔いや未練を残したまま終わってしまうということが。
テレビのアナウンサーが「本当に清々しい、スッキリとした笑顔での会見でしたね。」と言っていた。
でも、ソチでのビートルズが終わった後もそうだったけど、私にはやっぱりそうは見えなくて、みんなのための笑顔なんだって思って見ていたよ。
だって大ちゃんは、血を吐くような叫び声をあげるほどに苦しかったときでさえも、周囲の人や私たちファンを安心させるために笑顔を見せ続けてくれていた人だから。
そんな大ちゃんが地元で、しかもファンがショックを受けることをわかっていながら「引退」と言う言葉を述べるとき、笑顔じゃないわけがないよね。

気持ちは100%続行。
そう口にしたあの日から、まだ半年も経っていない。それから引退を決めるまで、どれだけの苦悩と葛藤があったのだろう。でも、それを消化するだけの時間はきっと、なかったよね。
まるで考えることから逃げるように、アイスショーやイベントに出続けているように思えたこともある。大ちゃんの露出が多ければ多いほど、私の中では引退しか道がなくなるような気が漠然としてた。だから、大ちゃんが表に出てきてくれることを、ずっと素直に喜べないでいたんだ。
でもね、大ちゃん。

カッコよく終われないかもしれないけど、それもいい。
ソチまで現役続行を決めたときに、大ちゃんはそう言ってたよね。
大ちゃんは、カッコよかったよ。
いつだって最高にカッコよかった。
優しくて、爽やかな笑顔。
穏やかで、心地の良い声。
誰も傷つけたりしないキレイな言葉。
次から次へと出てくるのは周りで支えてくれた人への感謝の気持ち。
心の準備をする間もなかったファンに対しては心のこもった言葉。
これからシーズンが始まる後輩たちへの影響を考えて選んだこの時期。
自分が生まれ育った街、スケートに出会った故郷という場所。
お母さんと歌子先生、佐々木美行先生の3人にガッチリに囲まれて。
フィギュアスケートの未来を託したい子供達にも囲まれて。
そして大ちゃんを愛してやまないたくさんのファンに囲まれて。
世界と戦うアスリートらしからぬ。
でもどこまでも大ちゃんらしい。
最高にカッコいい。
そんな会見だったね。
大ちゃんが決めたことを応援する。
私は、そう決めている。
大ちゃんの本意云々ではなく。
自分が納得するしないでもなく。
大ちゃんが決めたと言ったならば、私は応援する。ただ、そう決めている。
大ちゃんの決断は、本当にある日突然だったり、うっかりカメラの前で言っちゃっただったり、たまに「???」ってこともあるけれど、いつでも正しいのだから。
だから、引退というラインを引いてモヤモヤを取り除いた上でこれからのことを考えて行くという今回の決断も、正しいのだと信じている。
ただね、1つだけお願いがあるの。
大ちゃんが考える「これからのこと」から、今はまだ現役復帰という選択肢を取り除かないでほしい。
ラインを引いた向こう側で、今度こそ本当にゆっくりと考えてほしい。真央ちゃんに言ったように、周りの人がどうじゃなく、自分のために。
本当はマスコミからもスケートからもファンからも、一旦スパーンと離れてほしいくらいだよ。
大ちゃんがまだ現役に未練があって、現役復帰の可能性はゼロではなくて、次なる夢が見つかっていないのなら、私は競技者として大ちゃんが戻ってくる日を、待っていてもいいかな。
またいつか、髙橋大輔選手に会える日を楽しみにしていてもいいかな。
…待っているよ。だから今はまだ「現役生活お疲れ様」とは言わないね。
いつの日か、満場の喝采とD1skタオルで埋め尽くされた大きなスケートリンクで、最高の笑顔の大ちゃんを見送ることができますように。
これからもずっと大ちゃんを見守る、ではなく、私は応援してるから。
フィギュアスケート 男子シングル
髙橋大輔
引退(第1回)
