九月の空

まだ黒に染まりきらなくて

三つ並んだビルの屋上から

三つの赤い光が空を照らす

紅色でぼんやり霞む景色

それを見ては穏やかになるのは

あなたと毎日少しだけお話できた空と繋がっているから


入院中

個室の窓から見えた三つのビル

夜も昼も眺めていた

ただ外の世界の熱に憧れて

たった三週間なのに

永遠に続くかのように感じられて

何も考えずぼーっと眺める

見える景色は狭くて

手を伸ばしても外の空気には触れられない


それでも毎日あなたとお話が出来たから

それだけで満たされていた

余分な時間なんて一瞬も無くて

ただあなたが来るのを待っていた


副作用でしんどい時は

あなたは完全な先生

余裕のある時は

髪を整えたり

お話するまでに身支度して

何食わぬ顔で

気づかれないよう

「もう来たの?」

って取り繕っていた


確かに療養で

あなたと話す時間以外は

ただの患者

でもあなたと話しても

ただの患者

けれど心の中だけは

すきと言い続けていた



同じ景色が私の部屋からも見えるの

角度は違くても

見えるビルの赤は同じ

霞んだ紅色も

あの時と何も変わらない



同じ景色を七月の個室と

九月の自分の部屋から眺めているけれど

心は果てしなく遠い

あの赤い点と同じ

あなたの広い空の

たった一つの斑点でしかない私



空に溶けてしまいたいなんて

想わないようになりたい

綺麗すぎて

奪われそうになる心もいらない



現実が欲しい

何より今が欲しい

あなたはまだ先生でいい

私はまだ患者でいい



そう言い聞かせても

見える景色が同じ事に

思いを馳せる

空と9階から見える景色だけが

あなたと私を繋ぐものだから



九月の空

まだ黒に染まりきらなくて

三つ並んだビルの屋上から

三つの赤い光が空を照らす

紅色でぼんやり霞む景色

それを見ては穏やかになるのは

あなたと毎日少しだけお話できた空と繋がっているから



あなたは今

何を見ていますか?

変わってしまったものがあるとすれば

季節と

少しだけ私を解ろうとしたあなたの心です