金曜日の夜9時頃に、病み上がりでマスクを着用しながら残業をしていたら、フロアの端っこで、以前「得意料理は力うどん」と合コンで言われた、はきはきと元気なSちゃんも、なにやら熱心に仕事をしていた(→よければ参照 )。
そうすると仕事が終わって帰ろうとしている「力うどん」の話を一緒に聞いていた先輩が、そういえばSはパンプス買ったの~?とSちゃんに話しかけているのが聞こえた。
「まだ、買ってませんよ。」うつむき気味にSちゃんは答える。
「あんた変わるって言ってたのに、早く買わないと!」と先輩がからかって、今度はSちゃんのとなりで仕事をしていた後輩が、「ちょっと、ちょっと、○○さんにあのジャムおじさんの話してあげなよ!」と笑いながら言うのが聞こえたので「なになになに!?あたしも聞きたい!」と身を乗り出して話を聞いてきた。
「えー… いいですけど、別に普通の冴えない恋の話ですよ。」という始まり方で話すSちゃんの話をそのまま書くとこうだ。
「高校1年のときですね、初めて真剣に好きになった人がいたんですよ。サッカー部で、恋愛なんて、どうでもいいってくらい、サッカーに打ち込んでる男の子で。彼の誕生日に、何か作ってプレゼントしたいって思って、普通はクッキーとかケーキとかが上がると思うんですけど、その彼は何しろサッカーに打ち込んでて、炭水化物を摂取することが生きがいみたいな休み時間を送ってたから、あたし、パンを作ってあげようと決めたんです。」
「そんで、毎日、毎日、毎日パン作っては学校に持って言って、女友達に食え!って試食させて、おいしいパンを作ろう!って言ってたから、お前マジでジャムおじさんみたいだなって言われて、学校ではしばらくジャムおじさんって呼ばれるし、パンはあげられたけど、ありがと、なんて言ってむしゃむしゃ食べて、彼との進展は何もなくって。そんなことがあったから、今でも高校の友達みんなであつまったら、ジャムおじさんって言われるんですよ。」
その話をもう何度も話慣れているように、Sちゃんはすらすら話す。
一緒に聞いていた先輩は「ジャムおじさんって色気ないよね。」とか言ってたけど、あたしは純粋に「ホントにいい話じゃん!」と思った。
素直に「すげー いい話じゃん、それ。Sちゃんの良さがすっごく出てると思うけど。」と言うと、Sちゃんは「どこがですか!ジャムおじさんですよ!けっきょくパン一生懸命作ったってあだ名はジャムおじさんだし、合コンでは力うどんだし!」と力を込めて笑った。
合コンで「力うどん」と言われたことを話のネタではなく、けっこう気にしてる様子だったので、「Sちゃん、その力うどんって言った男の子のこと、いいなって思ってたの?」と聞いてみた。
「思いませんよ。部活は柔道?なんて言ってくるし、まぁそれはニアピンなんですけど(彼女は弓道部)。失礼なやつって思いました!」
「じゃぁいいじゃん。そんな失礼な男に好かれなくたって。」Sちゃんがやっぱり傷ついたんだなと思ったので、心底正直にあたしは励ました。
「そうですけど!失礼なやつにそんなことを言われたから、ますます悔しいです。」とSちゃんはまた、残業中なのに、仕事が残っていることをちっとも気にしない様子で、はきはきと悔しがるので、「大丈夫。そんな失礼なやつは、Sちゃんがジャムおじさんみたいにおいしいパンを焼けることとか、力うどんだけじゃなくって、かわいいオムライスをお弁当に持ってくることとか、知らずに死んでいくんだから。きっと一生交わることはないし、気にしなくていいよ。」と言っておいた。
「U子さんだっけっすよ。そんなこと言ってくれるの。」とSちゃんは苦笑いしていた。
体育会系で、はきはきとしていて、おもしろくて、さばさばとしている女の子が、好きな人のために夜な夜なパンを焼く練習して、しかもその結果に、好きな人に食べさせるくらいのおいしいパンを焼ける技術を習得したなんて、なんて素晴らしい話だと思うのは、あたしだけだろうか。
おいしいパンを食べてもらいたいという思いには、彼の生活だとか、好きなものだとか、自分があげたいものではなくって、相手のことをよく考えられるSちゃんの良さが、いっぱい詰まっていると思う。
あたしが男だったら、こういう子をきっと好きになるのに、と残りの残業を片付けながらしっかり思った。
そして昨日。
あたしは埼玉に住むチョコのうちで、「U子がよっぱらうための練習会」をやってもらっていた。
生涯彼女ほしすぎる病にかかっている正志とチョコは、あいも変わらずバカで、ビールをがぶがぶ飲んでいて、あたしはあの、大好きで大切なふたりに、「あたしのブログで書いてたSちゃん、紹介しようと思ってるんだけど。」と言うと、予想通り、ふたりは「し、し、紹介してよ!おれ、あのブログ読んで超いいっっって思った!絶対いい子でしょう!」とか声を張り上げて言うので、明日はSちゃんに、男の友人ふたりに力うどんの話をしたら、ぜひ紹介してくれと言ってるから、一緒に飲もうと誘ってみようと思う。