薫り高い ☕︎ 貴女だけの物語りを一杯一杯、丁寧に抽出します。
魅力抽出マイスター・純喫茶〜洞穴(ほらあな)〜の主人(あるじ)です。
彼女の美しく熱い想いに動かされ、わたしは生まれて初めての作品を抽出しました。そしてそれは、とても重厚で芳醇な薫りを湛え、わたし自身、何度も何度も読み返しては、涙する最高の物語りでした。
わたしは、さっそく彼女に連絡を取りました。
早く見てもらいたい!最高の出来だと感じるが、彼女はどうだろうか..。
胸が高鳴り、指がかすかに震えていました。
わたしからの連絡に、勢いよく店に飛び込んできた彼女は、カウンター席に腰を下ろすとすぐさま、手渡された紙に目を走らせました。
しばらく、熱心に紹介文を読んでいた彼女は、キラキラした眼差しでわたしを見つめるとこう、叫びました。
最高!!!
「特にここ!!」
手にした紙を指差して、
「ここのくだり!最高すぎます!!!」
「あ、でも、ここは微妙に違うかな。少し直して欲しいですね。」
とても、熱心に彼女は、わたしが抽出した 彼女の人生と彼女自身の想いに目を走らせ続けました。
そうして、しばらく時間が過ぎた頃、ふと思い出したかのように彼女は、座っていたカウンター席の椅子の背もたれに背中をつけると、グラスに注がれたアイスコーヒーを一口飲みました。
顎下に人差し指と親指を添え、何やら考えているような眼差しで空を見つめています。
そのまま、どこかを見つめた視線のまま、ゆっくりと口を開きました。
「マスター」
「キャッチコピーもお願いできませんか?」
驚くわたしに視線を向け、少しゆっくりと話し始めました。
実は、彼女には誰もが知っているキャッチコピーが、存在していました。
そのキャッチコピーは、既に定着しており、彼女の代名詞にもなっていましたし、わたしも良く知っていました。
そのキャッチコピーをわたしが、変える..とても怖くて、断ろうか..そんな思いが即座に過ぎりました。
女神が、人になった日。
「わたしのこの、キャッチコピー。とてもお世話になった方につけていただいたんです。」
「でも、少し重い..なんだか違うと感じていて..」
彼女は、「女神」と書かれた箇所を指差し、複雑な想いを丁寧に話してくれました。
確かに、彼女からは
もっと人間臭く
もっとずっと温かく
深い深い、母のような器
と
日本のお母ちゃん
のような
肝っ玉さ
が、溢れていました。
受け取った彼女は、喜びに大興奮し、キラキラした眼差しと更に力強くなった足取りで 店を後にしました。
わたしは、無事に終えた安堵感と終わってしまう寂しさで彼女の姿を見送りました。
それから数ヶ月後..
彼女は、夢が叶い、本当に寺子屋の女将さんになるのです。