小学生の頃の話である。
僕は、お祭りのカラオケ大会の会場にいた。
会場は公民館で、出場者は舞台で歌い、
観客は床に敷かれた絨毯に座って応援する。
当時、カラオケ大会など興味はなかったが、
母が出場していたため、
お祭りの出店を一通り楽しんだ後、
会場で応援していた父と一緒に、
大会の後半からカラオケ大会を見ていた。
全員が歌い終わり、得点を集計する。
その時間を利用して、
ゲストに来ていた、町内出身の売れない女性演歌歌手が、
プログラム通り、歌を歌った。
1曲歌い終わると、女性演歌歌手は、
売れ残りのカセットテープの販売を始めた。
1つ500円。
カセットテープを手に、女性演歌歌手は歌いながら、
絨毯の客席を歩く。
500円札(札の時代です)が延べられると、
カセットテープを渡して握手をする。
2曲目が終わったが、売れ行きが悪い。だって売れない歌手なんだもの。
「まだ、○十本残ってますね。もう1曲歌っても良いですか? もう1曲だけ」
女性演歌歌手は、主催者に向かっていかにも、
「お願い!!」という態度で許可を求める。
すると同じ曲がまた流れ出した。
先程と同じように歌いながら歩く。
しかし売れ行きは悪い。
とうとう、1,2本しか売れずに、曲は終わってしまった。
聞きたくもない歌を2曲も聞かされ、
ましてや特別上手いならまだしも、
プロという割には、カラオケ大会に出場していた素人にも劣る歌唱力で、
観客は飽き飽き状態。
やっとこの地獄から解放されると思いきや、
この女、
「もう1曲だけ歌っていい? これで最後、あと本当に1曲だけ。
○○って曲あったでしょ。それかけて」
とか言い出しやがった。
一応はゲストである。
主催者が断れるはずもなく、そのリクエストされた曲が掛った。
客席はどよめいている。
早くカラオケ大会の結果を知りたいのに、
売れない歌手の歌を延々と聞かされ続けているのだ。
子供心に僕も憂鬱だった。
売れない演歌歌手は、
再び、歌いながら客席をゆっくりと歩きだす。
近くに来られた客は、
その歌手と目を合わさないようにしている。
売れない演歌歌手は、よっぽど売れ残りをさばきたいのか、
買ってくれる人を探すのに夢中で、
歌の歌詞は滅茶苦茶だ。
何とも険悪な雰囲気が、会場に漂っている。
曲が終わる。案の定1本も売れない。
ようやく地獄から解放され、
これで審査結果が聞けると思いきや、
この売れない演歌歌手、
「じゃあ、本当にこれで最後!」
とか言いながら、もう1曲歌いやがった。
誰かが買わないと、
この女、
ずっと歌い続けるつもりだ……。
客席の数名がそれを悟ったらしく、
2,3人が、聴きたくもないカセットテープを買い始めた。
子供の僕からしてみれば、
その2,3人は、まさに悪者から人質を解放する、
正義のヒーローに思えた。
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