夢14
雲の街の朝は、鶏の鳴き声で始まる。
雲の街では、鶏を飼うのが流行しているらしく、あちこちの家から鶏の鳴き声が聞こえる。
朝日が昇ってきても、まだ星が多く見え続けている。
やはりそれだけ星に近いということだろうか。
蛍のように町を漂っていた空の星は、いつの間にかに姿を消していた。
昼間はくもの隙間に隠れているのだという。
積乱雲の山に登るといったら、町の人が雲の畑で取れたパンの実で作った弁当をくれた。
パンの実と言うのは、外見はハロウィンの時によく見るかぼちゃのような感じで、中身がパンそっくりなものである。
その身を二つに切って、中にジャムをはさめばジャムサンドパン風味の出来上がりである。
正確にはパンではないのだが、ほとんどパンそのものの味である。
ほんの少し、リンゴのような風味がするが、ジャムを塗ってしまえば、それも判らなくなる。
雲の畑は、土の畑と同じくらいに植物がよく育ち、地上から飛んできた植物の種によって森も出来ている。
ただ、これから行く積乱雲の山は、それほど長時間同じ形を保っていないので、植物が根付くことはないという。
人工的に作り出した雲だからこそ、植物も生えるのだという。
弁当をもっと山への道を行く。
道を歩いていると、向こうから、一人の若者が踊りながら歩いてきた。
見たことのない踊りだが、どこからともなくその踊りに合わせて音楽が聞こえてくる。
音の聞こえる方向に探して目を向けると、そこには小さな虫がいた。
外見は鈴虫のような感じだが、CDプレーヤーのように自在に音楽を奏でている。
「音虫」と言うそうだ。
音虫を引き連れて踊りながら歩いてきた若者が、私の前まで来るとこういった。
「西に行けば、きっとよいことがあるはずさ」
何か西によい物があると言うのだろうか、半信半疑ではあったが、うそをつくような感じでもなかったので、聞いて西に行くことにする。
もっとも、コンパスも持っていないので、どちらが西かなどはよくわからないが、太陽が東から昇ると仮定すると、西もわかる。
ただし、ここの太陽が本当に東から昇るかどうかはわからない。
でも、ほかに調べようもないので、とりあえず西であろう太陽の昇ってきた方角の反対のほうへと言ってみる。
ここら辺一体は山に囲まれていて、そちらにも山はあるので山登りには支障ない。
西と思われる方向の山を目指す。
途中、ちらほらと木々が生えているほかは、建物も無く、わずかに凹凸のある地面のほかは特に何もない殺風景な道が続く。
昼時、いよいよ大きな積乱雲の山のふもとにまでやってきた。
そういえば、積乱雲といえば雷、もしかしたら雷が鳴るかもしれない、そんなことを考えていると、やはり雷が発生した。
と言っても、ほとんど音しか聞こえず、それも、雲に吸収されて、遠くでごろごろと鳴っている感じに聞こえる程度である。
時々、雲の中のほうがほの明るく光るが、しびれたりすることはない。
山の中腹程度に、巨大な金属の棒が突き刺さっている。
この雷の電気を取り出すための棒で、これで町全体で使う電気を完全に供給できるという。
棒の先端から時折火花が散る。
その火花が散ったところをよく見ると、何やら丸い光の玉が浮かんでいる。
どうやら空の星のようだ。
空の星は、天の星と違って、昼間は雲の中に隠れていて、その中で起きる雷を食べて光るエネルギーを補充している。
この、電気を集める装置から出てくる火花は格好の餌になるらしい。
家でこの星を照明などに使いたい時は、昼間の間に電気を食べさせるといつまでも光り続けるという。
何かの役に立つかもしれないので、空の星を一粒ポケットに詰め込むと、積乱雲の山を更に上へと目指して進むことにした。
しばらく、山を登り続けると、1枚の立て看板があった。
「雷山5合目」
どうやらこの山は雷山と言うらしい。
もしかしたら、昔の人が書いた、鬼のような雷様が住んでいるのかもしれない。
そんなことを考えながら歩いていると、雲の窪みに小屋が見えてきた。
「雷」
ただ一言そう書いた表札が掲げられている。
窓から中をそっと覗いてみると、絵に描いたような雷様が寝ていた。
真っ赤な肌にもじゃもじゃの髪の毛、部屋の隅には太鼓が幾つも繋がった雷発生装置とも言うべきものもある。
やっぱり雷はこの人が起こしていたのか、そんな事を感じながら覗いていたが、全く起きる気配もないので、その場をそっと後にしてふたたび頂上を目指す。
雲と言うものは、ふかふかとしてて、非常に軽快に歩を進めることが出来る。
足腰への負担もなく、山登り何の苦も無い。
苦労したい人には向いていないが、私のようなちょっとした散歩気分の人間にとってはもってこいだ。
山を登り始めてから数時間、いよいよ頂上が見えてきた。
頂上には一本の旗が立っていて、何の模様も書いていない、真っ青な旗である。
偶然そこにいた登山客に話を聞くと、この青い旗は、天と地との境目を知らせるための旗だという。
つまりこの雲から上が宇宙であり、下が大地、星である。
その境界線、積乱雲の山の頂上にたどり着いた私は、しばしその絶景に見とれた。
雲の街はもちろん、雲の下の地上の向こうの海の水平線まで一望に見渡せる。
水平線は宇宙と接していて、その向こうには昼間でも星がよく見える。
自分がまさに天と地の狭間に立っているのだと実感した。
天と地は思ったよりハッキリと分かれていた。