ドッペルゲンガー。
それはもう一人の自分と言われている。
この世のどこに存在するのかはわからないが、
このドッペルゲンガーに出会うとその人はまもなく死んでしまうらしい。
その理由には諸説あるが、有名な話では、
ドッペルゲンガーが本物を殺しに来ると言われている。
同じ姿をしているのに、自分とは違う幸せな生活をしている本物を恨み、
自分が本物と入れ替わるため、殺しに来るのだそうだ。
また一説によると、
ドッペルゲンガーは脳に障害を負った人が見ると言われている。
脳の認識を司る機能が働かなくなることでもう一人の自分が見えるのだ。
この説の場合、その人は脳の病気により亡くなってしまう。
どちらにしろ、ドッペルゲンガーを見ることは危険なのである。
あなたも友人に「どこどこにいなかった?」
と聞かれたときは注意した方がいいかもしれない。
ドッペルゲンガーが近くに来ているかもしれないのだから。
さて、これから話すお話は今から1500年ほど前のお話です。
クルスと言う人物がいたのですが、
彼もまたドッペルゲンガーに出会った一人のようです。
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昔むかしあるところに、クルスと言う少年がいました。
彼は街一番の働き者で、朝早く起きては牧場で羊の世話をし、
夜は遅くまで商売をして暮らしていました。
彼の家には父親がいません。
クルスが幼い頃に家を出て行ってしまったのです。
だからクルスは大きくなってから学校にも行かず毎日働いて
家計を支えてきたのです。
その甲斐あってクルスの家族は貧しいながらも幸せに暮らしていました。
クルスと母親と6つ下の弟の三人で。
雨が降ると雨漏りする家に住み、
冬でも薄着を着て、
栄養価のある食べ物なんて食べられない、
そんな生活でしたがクルスの家からは毎日笑い声が聞こえてきました。
しかし、ある寒い日の晩のことです。
クルスが仕事を終え家に帰ってくると、
弟が熱をだして寝込んでいました。
母親が必死で看病するも苦しそうにうなっています。
今すぐにでもお医者さんに診てもらわないといけません。
そこでクルスは仕事帰りでクタクタでしたが、
すぐにお医者さんのところまで走っていきました。
ドンドンドン ドンドンドン
お医者さんのところに着くとクルスはドアを凄い勢いでたたきました。
「お医者さん、お医者さん!弟が病気なんです!見て下さい!」
クルスは大きな声で叫びました。
今は夜遅くなのでお医者さんは診療を終えて寝ている時間です。
しかしクルスの声が大きかったため、それに気づいたお医者さんがでてきました。
「おっとクルスじゃないか!こんな時間にどうしたんだい?」
お医者さんが尋ねました。
クルスは弟が病気で倒れていることを伝えました。
するとお医者さんはこう言いました。
「診察するのはいいけどお金はちゃんとあるのかい?」
どうやらお医者さんはクルスにお金がないことを知っていたようです。
そうです、クルスの家はその日暮しの生活をしていたので、
診察代なんて払えません。
それでもしばらくクルスはお医者さんにお願いしました。
しかし結局お医者さんはクルスの頼みを聞いてくれませんでした。
クルスは悲しみにくれながら家に帰りました。
空から降る雪がクルスの心を一層冷やします。
「ただいま。」
クルスが力なく家のドアを開けると、
母親が泣いています。
どうやらクルスが帰ってくるまでに弟は息絶えたようです。
クルスは泣きました。
泣いて泣いて泣き疲れるまで泣きました。
そして泣き疲れてそのまま眠ってしまいました。
次の日、クルスが目を覚ますと、クルスは驚きの光景を目にします。
母親が苦しそうにしています。
どうやら弟の看病をしている時に病気が感染してしまったようです。
クルスは家を飛び出しました。
お医者さんはだめだ。
なんとか温まるものを着ないと。
クルスは洋服屋へ駆け込みました。
「温かい服を下さい!お母さんが寒くて死んでしまうんです!」
もちろん、クルスには洋服を買うお金なんてありません。
断られることは目に見えていました。
しかし、洋服屋さんはいい人で、
代金はそのうち払ってくれたらいいと言って服をくれました。
赤い毛皮の見るからに温かそうな洋服です。
クルスは喜んで家に帰りました。
ガチャ
クルスは勢いよく家のドアを開けました。
「お母さん、毛皮の洋服買って来たよ!これでもう寒くないよ!」
クルスは急いで母親に洋服をかぶせました。
しかし母親は何の反応も示しません。
母親もクルスが帰ってくるまでに死んでしまっていたようです。
クルスは泣きました。
涙が枯れるまで泣きました。
自分の不甲斐なさを感じながら。
もっとお金があったら母も弟も死なずにすんだのに。
それから何十年も経った日のことです。
クルスはすっかりおじいさんになっていました。
今では立派にしろひげもたくわえています。
クルスは二人が亡くなってからも必死に働いていました。
寂しくなるのが嫌だから、
できるだけ働いて二人のことを思い出さないようにしていました。
しかしそんなクルスもおじいさんになった今では働けません。
だから毎日二人のことを思い出してしまいます。
二人をもっと幸せにしたかった。
もっとお金があれば。
クルスはつい後悔ばかりしてしまいます。
そんなある日のこと、クルスは名案を思いつきます。
そうだ、お金のない家庭に私のお金をあげよう。
同じ思いをする人がでないように私のお金を使おう。
クルスは一生懸命働いていたのでお金はたくさんありました。
クルスはそれを配ることにしたのです。
しかしお金をいきなりあげるのは怪しまれるかもしれません。
そこでクルスは夜中に煙突から金貨を投げ入れることにしました。
お金のない家の人はビックリしました。
朝起きると金貨が家の中にあるのですから。
しかしみんなすぐに神様がくれたのだと言って喜びました。
そんな様子を見るのがクルスは楽しかったようです。
自分のお金で困っている人が幸せになれるのなら、
そう思ってクルスはそれから毎日煙突から金貨を放りました。
年をとってしんどいので、移動にはそりを使いました。
冬になると寒いので洋服は毛皮の服を着ました。
昔母親に着せようとしたものです。
クルスはそれを着ることで母親のための服が
多くの人に幸せを与えてるんだと母親に伝えていたのかもしれません。
クルスは来る日も来る日も金貨を放りました。
しかし、そんな日が毎日続くはずはありません。
クルスのお金も少なくなってきました。
それでもクルスはみんなの喜ぶ顔が見たいから、
自分の食事を減らしてでも金貨を放り続けました。
そんなある日のこと、クルスがいつものように金貨を放っていると、
目の前に自分と同じ格好をした男が金貨を放っているではありませんか。
クルスは自分と同じことをしている人間がいるのに嬉しくなって、
その男を追いかけました。
「おい、待ってくれ!」
クルスは男に後ろから声をかけました。
すると、男は声が聞こえたのか立ち止まりました。
そしてクルスの方を振り返りました。
「な、なんと言うことだ!」
クルスは思わず声をあげました。
それもそのはず、クルスの前にいる男はクルスと同じ格好をしているだけでなく、
顔も体型も全て一緒だったからです。
クルスは自分と同じ男がいることに恐怖を感じました。
そんなクルスに男はゆっくりと近づいてきます。
そしてクルスのすぐ前にくると、
持っている袋に手を入れ何かを取り、それをクルスの掌に乗せました。
クルスは掌に乗っているものを確認しました。
それは金貨でした。
自分がいつも放り投げている金貨です。
クルスがなぜ私に?と言う顔をしているので男は言いました。
「本当は幼いあなたが一番金貨を欲しがっていたのですよね。
今まで辛かったでしょう、寂しかったでしょう。
それなのに良く頑張りました。」
クルスは泣いていました。
今まで気を張って生きてきたが、それをこの男が見ていてくれた。
自分を認めてくれる存在に出会うことでクルスは救われた気持ちになりました。
ありがとう
ありがとう
クルスは涙が止まりませんでした。
まるで今まで溜めてきた涙がドッと出てきたかのようです。
クルスは泣き疲れるまで泣きました。
そして子どもの頃のようにいつの間にか眠っていました。
クルスはそれから、
二度と目を覚ますことはありませんでした。
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クルスが街の人に発見されたのは次の日の朝でした。
それは12月25日のことです。
クルスを見た街の人たちはこう言いました。
「この人は聖人のようだ。」
クルスの手に金貨が握られているのを見て、
いつも金貨を放り投げてくれていたのがクルスだとわかったからです。
クルスはそれから街の人たちに丁重に弔われ、
死後聖人として敬われました。
そして人々は彼の存在を忘れてはならないと言うことで、
24日の夜になると彼が来てくれるのだと語り継ぐことにしました。
それが今でも聖夜にやって来てくれるサンタ・クルスなのです。