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マターリして行ってね⊂二二二( ^ω^)二⊃ ブーン

いかがわしいイカは逮捕された。


なぜ逮捕されたのかというと、いかがわしいからである。


そのあまりに、ストレートな理由にイカは笑ってしまった。


「なんで、オレが逮捕されなあかんねん」


いかがわしいイカは、逮捕令状も持たずにどかどかと部屋に


やってきた刑事達に向かって、自嘲気味に呟いた。


「見たらわかるだろう。お前がいかがわしいからだ」


おそらく刑事達の中で最も立場が上であろう人物が、代弁して


イカの疑問に答えた。


その答え方は、地球は自転している、と答えるかのようで、


さも当然と言わんばかりの態度であった。


「いややわ。そもそも令状持たんと逮捕て。あかんのとちゃうん」


「現行犯の場合はなくても可能だ。」


「現行犯ってなんのやねん」


「いかがわしさの現行犯だ」


もはやイカは呆れて笑うしかなかった。


今年で三十年、人様に迷惑をかけることだけはないようにと、


心がけてきたのだ。


ボランティア活動もたくさん行った。


暇さえあれば献血にも行った。


募金活動だって、出来る限りはやってきた。


なのに、その仕打ちがこれかと思うと思わず涙が出そうになった。


「とにかく詳しい話は署で聞くから、早く来い」


そう言われれば、もはや従うしか道はなかった。


長年の地上生活で覚えたことは、国家権力に逆らっても無駄だという


ことだったのだから。




近くの警察署に連れて行かれたイカは、面会室のような何もない


部屋へと案内された。


テレビドラマでよくカツ丼などを食べるシーンがあるが、


ああいった部屋のようなものだと思ってもらえればいい。


「それで、なんでこんなことをしたんだ」


椅子に座るなり、先の刑事がいきなりの先制パンチを打ち込んできた。


「なんでもなにも、こっちとしては意味わからんわ。


 普通に仕事して、遊んで、寝て、の生活しとっただけやんか」


「嘘をつくな。普通に生活している者は、近隣の住民から通報される


 なんてことはないはずだ」


「通報て。誰が通報したん」


「それは守秘義務があるから言えるわけないだろうが。


 とにかく、うちに通報があったんだよ。いかがわしいイカがいるってな」


「いやいや!なんやねんそれ。むちゃくちゃやんか。


 なんで通報されなあかんねん。それにオレはだいぶ前からここに


 住んでるねんで?いまさら通報される意味がわからんし」


「通報される意味は分かるだろう。おまえがいかがわしいからだ」


刑事はそこであからさまにふぅとため息をついた。


物分りの悪い子供を説き伏せているかのように喋る。


「そもそもいかがわしいって何なん。オレ普通のイカやん!


 全然いかがわしくないし。オレからしたらお前ら人間の方が


 よっぽどいかがわしいわ、ボケ」


イカは頭に血が昇り、言わなくてもいいことまで言ってしまった。


言った瞬間、イカ自身も、しまったと思ったのか、


「ごめん、言い過ぎたわ」と反省の弁を口にした。


少しの間、面会室に沈黙が訪れた。


気まずい雰囲気が漂う中、再び口火を切ったのはイカだった。


「まって。そもそも、オレの罪ってなんなん?」


イカはただキレるだけでは埒が明かないと思い、今度は


冷静に攻めてみることにした。


「ん?そんなのいかがわしい条例違反に決まっているだろう」


「いや、なにそれ。そんな条例聞いたことないで」


「お前が知ってようと知ってなかろうと、この条例は確かにあるんだ。


 そして、お前はその条例に違反した。だから逮捕されたんだ。


 分かるか?」


アンダースタン?と、その刑事はイカを挑発するような言い方で告げる。


「その条例なんやねん。いつできたん」


「今年施行されたんだ。今までお前が逮捕されなかったのは、


 この法律がなかったからだとも言えるな」


「知らんし!誰やねん、そのしょうもない法律つくったん」


そこで、この刑事は条例を作成したと思われる人物の名を


挙げたが、イカにはまったく聞いたことがない名前だった。


加えて、この条例のどの部分に違反したのかを説明される。


いかがわしい条例第13条にある「身なりや姿がいかがわしい


ものは即刻それを正さなければいけない」を守らず、放置していた


のがいけなかったらしい。


「いや、いかがわしい格好ってなんやねん。


 こんな曖昧な条例何で許されたんや」


「いかがわしい格好といえばお前みたいなやつのことだろう。


 それに、これは国民からの要望で急遽作られた法律なんだ。


 むしろ待ち望まれていたと言えるだろう」


「ちょっと待て。国民の要望で?ありえへんやろ。


 それにオレはちゃんとしたイカや。全然いかがわしないわ」


そこで初めて刑事が笑い出した。


「お前のどこがちゃんとしたイカなんだ?」


刑事はおかしくてしょうがないといった様子で、なおも笑い続ける。


「見たら分かるやんけ。この色の白さ見てみ?めっちゃ綺麗やん。


 同期でこんだけ綺麗なやつ、まぁおらへんで」


イカは、自慢の体の白さをアピールすべく、椅子から立ち上がり、


一回転して見せた。


「な?分かったやろ?それに、これ見てみ。


 この足のとこ。ちょっとカーブしてるやろ。これはなかなか


 おらへねんぞ?今まで生きてきてこれあったやつ二、三人


 しか見たことないし」


イカは自分が如何に秀でた存在かを必死にアピールした。


いかがわしい条例なるものが存在する以上、その条例に違反していない


ことを示すしか方法がないように思ったからである。


「ほう。確かに。あまり見たことがないな」


これには刑事もちょっとした関心を見せた。


いける、と思ったイカは、


「あと、とっておき見せたるわ。


 ほれ、この背中。焼けた跡みたいなんあるやん?


 これは、イカの中でも特に高級なイカにしか押されへん印みたいな


 もんでな、いわゆる高級イカの証みたいなもんやねん」


と背中のある場所を指し示した。そこには焼印のような形で文字が押されていた。


「なるほどな。お前の素性が正しいということは分かった」


「やろ?だから言うたやん」


「だが、お前がいかがわしいことには変わりない」


「いや、なんでやねん!!」


こんなところで漫才をしに来たわけではない、とイカは思っていた。


しかし、この後、数十分、イカはあの手この手で自分の正当性を証明しようと


したが、どれも刑事の心には響かず、イカの体力と時間を削っただけの結果に


なってしまった。


「もういいだろう。言いたいことも言ったようだし、そろそろ…」


「待て待て!いやや、絶対うごかへんし。」


「またお前は、そうやって子供みたいなことを――」


「いやや、いやや、いやや!!」


そう言いながらイカは地面に寝転がり、親におもちゃを買ってもらうことを


ねだる子供のように、ばたばたと暴れだした。


それを見た刑事は呆れて言葉が出なかった。


「そこでそうやって暴れてろ」


そう言うと、刑事は、面会室の扉を開け、部屋を出て行った。


「やったー。あほや、今の間に逃げたろ」


そう言い、イカが窓の格子を外そうと、手を触れた瞬間、ばちっと音がしたかと


思うと、「うっ…」という声とともに、その場にイカは倒れこんだ。





その部屋の外で、さきの刑事と同僚らしき男が会話をしている。


「でもいいのかよ、こんな手荒い真似して。あとで怒鳴られるぞ」


「いいんだよ。こうでもしないと何しでかすか分からないからな」


やれやれといった様子で、刑事がタバコを口にくわえる。


「まったくお前のやり口には感心するよ。あんな嘘の条例まで作ってよ」


その言葉を聞いて刑事は、ふっと笑みをこぼした。


「自分をイカだと勘違いしてる人間なんだ。


 防衛策としてこれくらいのことは許されるだろうよ」


「まぁな。仮に本当のイカだったとして、あいつは煮ても焼いても


 まずそうだけどな」


そう言って、二人は笑いながらその場を去っていった。