パッーン 、 パッーン 、、渇いた音が2回。
まだ薄暗い明け方にこだまする銃声の音。
まどろみの中、音の正体を探る事もなく、猟友会の狩猟だなと分かる。
初夏の風が心地よく感じる休日、曾祖父母が手入れしていた裏山に母と散策に出掛けたときのこと、杉の木にちょうど人の目線と同じ高さの枝にラミネートされたカードがぶら下がっているのを見つけた。
「 ※注意※
猪 出没につき罠仕掛け中 」
そう。このあたりは、猪🐗がよく出没する。
何年前だろうか。
当時、習い事を終えた小学生の息子を車で迎えに行った帰り道で、猪の親子と出くわしたことがあった。
夕方の薄暗い時間だったこともあって、街灯の無い田舎町では常に車のライトをハイビームにして走行するのが当たり前であった。
カーブに差し掛かった前方左側の暗闇の中に、キラッと光るもの。その先が墓地だったこともあり、墓石に反射した車のライトか何かだろうと思いながら、減速して近寄っていくと、暗闇の中でゆったりと動めく黒い塊の集団。向こうもこちらに近づいてくる。
先に気づいた助手席の息子が、
「あっ・・・ いのしし!!」
視力が良くない私は、それを認識出来るところまで、車を左側に寄せて助手席側の窓を開けてみた。
こんな近くで見るのが初めてだった私は、凝視しながらも、車に向かって追突してきたらどうしよう、スピードあげて突っ切るか?いや、ここは狭い坂道、引いてしまったらどうする?とあれこれ考えていると、
息子「 ママ! あの小さい いのししの前にいる大きい いのししは、あの子のおかあさんかなー? おことぬしさまみたいだね☺️」
“おことぬし”!? ・・・??
あーーー!!
もののけ姫に出てきた猪神の王、
乙事主(おっことぬし)さまのことね!(笑)
よくよく暗闇に目を凝らすと、親であろう大きさの猪、さらにひと周り小さい猪、産まれて間もないであろう子どもの猪が、道路脇にある畑の中にいて、こちらを見ている。
向こうもこちらをじーっと見ているだけで、
逃げるわけでもなく向かってくる様子もない。
私「親子だろうね。人がいなくなる夜に食べものを探しに山から降りてきたんだよ。」
そんな話をしながらゆっくり車を発進させようとすると、
息子「おうちに食べものないかなぁ‥。木がなくなっちゃったから、いのししのおうち、だいじょうぶかなぁ‥。」
心配そうにポツリと言う息子。
その頃は、近隣で良質な山砂の採掘などあちこちの山で森林伐採が行われており、さらには太陽光パネルを活用した売電事業など遊休地にメガソーラー発電を設置したりと自然破壊に繋がる事柄が加速していたように思う。
私が、物心つくころ遊び場としていた山頂の稲荷神社も山砂採掘により、お社が無くなり、今は麓の入口に鳥居が立っているだけになっている。
人間の都合により、古くから住まう動植物達を追いやる行為は、生命を奪うことにも繋がる。
なんとも心が痛い。
まさに”もののけ姫“に見た乙事主がタタリ神になってしまう心情が想像できる。
ここは大自然に恵まれた集落で、鳥獣保護区の看板もあちこちにある。
田畑を荒らす猪駆除に猟友会が早朝から山に入っている。
猟犬の吠える声にまだ布団の中で微睡みながらも鳥達が羽ばたく音、獣を追う様子が聞こえてくる。
静まり返る山々に何度と無く放たれる銃声に獣が仕留められたことがわかる。
幼い頃、この季節になると猟友会のメンバーが猪鍋だ、雉鍋だと振る舞うことがよくあった。
今で言うジビエの会合みたいなものだ。
私は、子どもながらに狩猟された鳥獣類がさばかれる様子と血の匂いにものすごい抵抗があり、口にすることはほぼ無かった。
今もこの飽食時代にジビエを趣味にわざわざ人間のほうから動物達の住みかに罠をしかけ狩をする行為にも心が痛む。
フードロスと社会問題になっている一方で、野生の生き物達は、里山である住みかを終われ、食べるものも無くなり、どうやって生きられると思うか。
人間だけが、地球上に住まうありとあらゆる動植物を口にし、地上も海も空も自分達のものだと主張し争いが絶えない。
戦争や乱獲で、どれだけの種族が絶滅していったことか、無知では済まされない尊い命だ。
野生動植物の保護と共生していく活動が活発化されることを願う。