電車に乗ると、たまに、
〝なんでこの人が!〟と、意外な乗客と乗り合わせたみたいにチラチラ見られる。
有名人の〝誰か〟と勘違いしてるんだろうが、ケイタイでこっそり写真を撮る人までいる。
(たいてい本人はメールを打ってる振りをしているが、あまりにもケイタイの角度や高さがボクを狙い不自然で…)
気になってしまう!
そういうときボクは用意してあった〝英字新聞〟を広げる。
日本の新聞だと記事が古いと(アっ、日付がズレてる!)と睨まれ、かえって怪しまれる。なによりどこにわいせつな写真が載っているか分からず、シャイなボクはおちおちめくることもできない。
小説本を持ち込んで読む振りでうつむき無視したが相手にはそれが好都合で、ケイタイをボクに向けつづける。だからといって文庫本を顔の高さにもってきて読むわけにもいかない。
それで、「そうだ、英字新聞があった!」ということになった。
英字新聞だと日付がズレていようと、英文を学習しているように勝手にまわりが解釈してくれるし、わいせつな写真なんてどこにもない! なにより、
「英語が読めるなんて〝カッコいい〟!」
と周りが勝手に思うだけで、ボクに罪は無い!
当然、英語は話せないし、英字新聞は上下がわかるくらい。エジプト古代文字よりは多少マシだが…! っといった程度。
…ンで、それは次の停車駅で起こった。
ボクが英字新聞に隠れていると、外国人の男女が乗ってきて7人掛けの座席でボクの隣に腰を下ろした。髭を程よく生やしたブロンドのカールした髪の青年と、そのガールフレンドらしいパールホワイトの髪をショートに刈り整えた二十代前半の女性は、その荷物から旅行者のようだった。
(今日は、ココまで)!
時間帯もあって車内はガラガラ、7人掛けの座席にはまだ余裕があった。新聞を広げているボクをマナーが悪いと迷惑に思う人もいない。そして乗り込んできた外国人カップルの旅行者がなにやらゴチャゴチャ、
(間に合って良かったね!)
(この電車でいいの?)
(クロエ、オレを信じてないのかい?)
(アルマンゾ、あなたを信じてここまで付いてきたのよ!)
(オレも…愛しているぜ、クロエ!)
(あら、私そんなこと言ってないわよ、アルマンゾ!)
(言った!)
(言わない!)
(じゃあ言って!)
(アルマンゾ…きゃ、恥ずかしい!)
とかゴチャゴチャ…、旅行者にありがちな賑やかな会話が始まっても、誰も気にしない。
ボクは二人だけの〝世界〟にずっと浸ってくれたらいい、と新聞に隠れる。その新聞に気が付かないでくれよ! となぜか微かに緊張しながら。
(それにしても日本人って静かだね!)
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