今朝(昨日)のこと、駅を出た坂道の路地は凍りついていた。
いつもと違うガリガリと踏み刻む不慣れな〝足音〟をたてて、ボクは『ふんわり牧場』に向かう。

あちこちで車のスリップが見掛けられた。
目の前のベンツは坂道の交差点(赤信号)で止まったあと、青になった途端タイヤの焦げる臭いを放つ。しばらく粘ってようやくタイヤは数センチ前進を稼いだが、回転数には見合わない。
ボクが見てるし、立ち止まってみんなが見守っている(あるいは物見気分かもしれないし、ただの横断歩道の信号待ちかも!)
とにかく〝ガンバレ〟と通勤途中の人間に見守られては、車として機能していない。
後ろに控えた車の運転手もハンドルを握ってじっと様子を見守っているが、これは他人事ではない。
目の前の光景は、次は自分かも知れない。そうなったらどうすることもできない。タイヤをグルグル回すだけまわして…、
(こんな雪の日に車で出てきたことを後悔しても…)
もう遅い!

「ボクが後ろから押しましょうか?」
とベンツの運転手に声を掛ける。

運転席のガラス窓が下げて、女は言う。
「ダメですね、タイヤが滑って進めない!」
見ず知らずのボクに向かって何か別の対策を期待している言葉に、
「ボクは何でも器用にやってのける…、あ、」(余計ななこと言っちゃった!)
ボクは言葉を選んで、自分に代わってくれたらこの凍った坂道から脱出できる可能性があると伝えた。
女は喜んで運転席を譲る。
「お願いします、私じゃ無理ですモン」
ボクは後ろの車に頭を下げて合図を送る。(なんの〝意味〟かは自身でもよく分らないが何らかの迷惑を掛けた場合には〝重要〟だというのは分っている)
そしてベンツの運転席に乗り込んだ。
「おや、なんて座り心地のいい車だろう」
とギアーのニュートラルを小気味よく確かめ、クラッチを1に押し込む。コリっという変速音が妙な快感。
「あ!」