『セ○レがいます…』


某お嬢様高校に通う、
一見純朴な感じの女の子から、
そう言われた時、
ぼくはこう言いました。


『で、何か得るものあった?』


彼女は言います。


『寂しい時とか、
 紛らせることができた…』


僕は言いました。


『紛れたの?』


彼女はすぐに返信してきました。


『当たり前じゃない。
 一人でいなくて済むんだから』


僕は言いました。


『それが終わって、
 帰ったらもっと寂しくなるのに?』


彼女は返信をやめました。


数日後、
リストカットの画像を添付して、
メールがきました。


『あんたのせいでこうなったんよ!』


僕は返信しませんでした。


その日、
23件のメールを送ってきた彼女。


僕はあえて返信しませんでした。


そのどれもが、
僕を誹謗中傷したり、
落ち込んでいたり、
情緒不安定が目に見えてわかります。


それでも僕は、
心を鬼にして返信しません。


相談者がケンカを吹っ掛けてきた場合、
これに乗らない事にしてますし、
冷静じゃない時に、
何を話しても逆効果だからです。


『今からあんたのせいで、
 3Pするんだから!』


男二人と彼女で、
裸同然の格好をした写メ付き。


それでも返信しません。


翌朝、
彼女から


『昨日はごめんなさい。
 ストレス溜まってて、
 どうしようもなかった…』


というメールが来ました。


『ストレスが溜まって、
 孤独を感じたら、
 セ○レと関係を持っちゃうの?』


と聞くと、


『何かどうでもよくなるの…』


僕は言います。


『君のセ○クスは、
 自虐的なんやね…
 僕はどちらかというと、
 愛情が燃え上がってする感じだけど』


彼女は言います。


『それはあんたが恵まれてるからよ!
 私はいつも孤独だし、
 周りに友達もいないし、
 親だって、
 父親は外に女作って帰ってこないし、
 母親はテニスのコーチに惚れ込んで、
 馬鹿高いプレゼントして喜んでるし、
 そんな孤独、
 あんたに理解できないからよ!』


僕は言います。


『そうか。
 そうかもしてないね。
 僕は昔、
 母親から虐待受けてて、
 反抗しないジメジメした生活をしてた。
 誰も理解してくれない辛さ、
 耐え難い孤独、
 あの頃は嫌というほど実感してたのにね。
 君の孤独は、
 あの頃の僕と同じような苦しみやね。
 気付けなくてごめん。
 僕の今の生活が安定して、
 痛みを忘れてしまってたかもしれない。
 ホントにゴメン』


メールがぱたりとやみます。


しばらくして、
彼女はメールをくれました。


『虐待されてたの?』


僕は言います。


『うん。そうだよ』


彼女は言います。


『辛かったんだね…
 ゴメン…』


僕は言います。


『いいよ。
 むしろ感謝してる。
 君が思い出させてくれた。
 ありがとう』


彼女は言います。


『そんなつもりなかったの…
 ゴメンね…』


僕は言います。


『ホントにもういいって(^-^)
 それよりさ、
 今度一緒に病院行こうか』


彼女は言います。


『病院…?
 でも怖い…』


僕は言います。


『大丈夫!
 俺が診察室の中まで、
 入れたら付き合うし、
 入れなくても側にいるよ。
 だから安心して(^-^)』


彼女は言います。


『私、何かの病気なの?
 セ○レがいるのって、
 異常なことなの?』


僕は言います。


『セ○レがいる人が病気なんじゃなくて、
 君が寂しくてどうしようもなくなると、
 抑えが利かなくなるやん?
 もしかすると何かあるかもしれないし、
 調べてもらうのが一番良いと思うんよ』


しばらくメールがやみます。


きっと色々と考えてるんでしょう。
でもきっと、
今は冷静だから、
良い判断をしてくれると信じます。


すると彼女からメールが来ました。


『どうしても行かなきゃダメ?』


僕は言います。


『無理しなくていいよ。
 自分で今の状態が辛いなら、
 通院をオススメするけど、
 我慢できるなら、
 今じゃなくて良いんじゃないかな?』


またしばらくメールが来ません。


でもきっと来ると信じてます。


やっぱり来ました。


『ホントに一緒にいてくれるの?』


僕は言います。


『大丈夫!
 側にいるよ(^-^)』


彼女はちゃんと通院してくれました。
セ○クス依存の傾向があり、
情緒がかなり不安定。


ストレス軽減を目指して、
カウンセリング治療と平行して、
投薬治療がスタートしました。


処方箋をしっかり守るために、
彼女とピルケースを買いに行き、
朝、昼、晩と薬を分けてケースに入れ、
飲んだらメールをくれるよう約束。


これで一定の安定材料はできましたが、
問題はほとんど解決していません。


なぜなら、
彼女は両親の浮気のやり合い、
家庭生活の放置により、
ストレスを溜め込み、
孤独を感じていたのですから。



そこが変わらないと、
薬を飲んでても、
また同じ事の繰り返し。


薬は治療には欠かせないものだけど、
家庭環境まで治療してはくれない。





僕は、
彼女の貰った処方箋の用紙を持って、
両親と会う約束をしました。


それぞれバラバラに帰宅し、
早速僕に言いたい放題、
親同士で口論。
うんざりしながら待ちました。


『何を黙ってんだよ!
 あんた一番の他人なんだから、
 用がないならとっとと出て行けよ!』


僕は言います。


『客人目の前にして、
 大の大人が話し合いにさえ応じない、
 これじゃ話にならない。
 だから黙ってたんですが、
 なぜ私が帰されないといけないんですか?』


父親が言います。


『だったら早く済ませてくれ!
 こっちも忙しい身なんでね』


僕は言います。


『早く済ませないようにしてるのは、
 お父さん、あなただ。
 いい加減冷静に話を聞く気になりませんか』


ふて腐れてそっぽを向く。
こちらの考えた通りの反応。
自分達が悪いとわかっていて、
他人が仲介し、
自分が責められるとわかった大人は、
せいぜいこの程度の事しかできません。


この上、
僕が偉そうな事を言えば、
逆ギレして逃げ出すだけ。


そうはさせません。
そんな自分勝手が、
彼女をここまでにさせた、
最大の原因ですから。


両親の反応は、
まるで子ども。


相手が子どもなら、
僕には10年間子ども達と向き合ってきた、
絶対の自信があります。


子どもは褒めて伸ばす!


これが僕のやり方です。


『先程車庫前を通ったんですが、
 JAGUARに乗っておられるんですね』


父親は言います。


『は?関係ない話はやめてくれ!
 君は何が言いたくてウチに来たんだ!?』


僕は言います。


『いやぁ、
 あれだけの年代物のJAGUARを、
 あれだけ綺麗に乗っておられる。
 お父さんはきっと、
 凝り性で、
 マメで、
 真面目な方なんだなと』


ふいをつかれたようで、
お父さんも困惑気味に照れて、
またそっぽを向きます。


次はお母さんに言います。


『それとこのグラス。
 お母さんがお選びになったんで?』


キョトンとしてお母さんは言います。


『え?
 …えぇ…』


僕は言います。


『客をもてなすために、
 非常にセンスの良い食器を選ばれてる。
 お母さんはきっと、
 面倒見がよく、
 お友達もたくさんおられる、
 社交的な方なんですね』


お母さんは堂々とテレながら、


『趣味なんですよ』


と少し自慢。
先程までの強張った顔が消え、
両親ともに冷静さを取り戻し、
話を聞く準備ができました。


『仕事ができて、
 車のセンスも良いし、
 維持するのに難しいあの車を、
 あれだけ良い状態で乗れる、
 カッコイイお父さん。

 人の事を考え、
 気を配り、
 いつ何時でもお客さんが来て良いように、
 細部に渡るまでオシャレなセンスで飾り、
 この家を守るお母さん。

 そして、
 そんな二人の間に生まれた、
 優秀で、
 ホントにかわいらしい娘さん。

 僕にはわかりません。
 これだけ揃ってても、
 まだ足りないものがありますか?』


両親ともに、
こちらをハッキリ見て口をつぐみました。


『僕は、
 車の良い乗り方をする人は好きだし、
 センスの良い女性も好きです。
 娘さんには内緒ですが、
 お父さんとお母さんを信用して、
 これを持ってきました。
 ご覧ください』


診療内科の診断と、
その処方箋。


事前に両親には、
病院に行くので、
保険証などの話は通していましたが、
何科を受診するとは言ってませんでした。


普通なら気にするんですが、
忙しかったようで、
何も聞かれませんでした。


今初めて娘さんの診断を見て、
驚いた様子でした。


『娘さんねぇ、
 お父さんとドライブに行くの、
 好きだったそうです。

 お母さんみたいに、
 色んな趣味持てる人になりたいそうです。

 お父さん、
 何でドライブに連れてってあげないんですか?
 お母さん、
 何で一緒にショッピングに行ったげないんですか?
 お二人が外でどうしてようが、
 僕には関係ないですけど、
 どうしてあんなに可愛い娘さんを、
 一人ぼっちにさせるんですか?』


ぐうの音も出ない様子です。
でもここで言い過ぎてはいけません。


『娘さん、
 心が壊れるほど、
 悩んでましたよ?』


これで十分こたえたはずです。


うなだれる両親。


僕は了解を得て、
お父さんと娘さんと僕の3人で、
話し合いました。


彼女は泣きながら、
お父さんに言いました。


『お父さん、
 私の事嫌いになったの!?
 もう私なんていらないの!?』


お父さんは相当参った様子で、
謝っていました。


お父さんに席を外してもらい、
お母さんに入ってきてもらいました。


彼女は再度訴えます。


『お母さんは私のどこが嫌いなの!?
 私なんてもういらないの!?』


お母さんは謝っては泣き、
崩れ落ちていました。


家族3人で、
彼女の部屋で、
話し合ってもらいました。


両親が責任のなすり合いをしないよう、
会話をまとめる役に徹し、
頃合いを見て、
僕はそっとおいとましました。





その日の夜、
彼女はメールをくれました。


『えーちゃん、
 今日はありがあとうね。
 お父さんとお母さん、
 結局離れて暮らすことになったの。
 ホントはそうならないでほしかったけど、
 お互い浮気してたんじゃ、
 許すも何もないからね。
 仕方ないかなって思うよ』


僕は言います。


『そうか…
 そうならないで欲しかったんやけど…』


彼女は言います。


『でもね、
 離婚じゃなくて、
 別居っていうの?
 とりあえずお互い反省し直して、
 もう一度一緒に住みたくなったら、
 元に戻ろうって感じなの』


僕は言います。


『じゃぁ君は、
 どちらかと一緒に暮らすの?』


彼女は言います。


『一週間交代で、
 お互いの家を行き来するの!
 これってすごくない!?』


僕は言います。


『すごいって?』


彼女は言います。


『だって、
 二つの家持ってて、
 どっちにも私の部屋あるんだって!
 金持ちっぽくてすごいやん?』


少々呆れ気味に、


『そーゆーとこポジティブやな(^-^)』


と言うと、
彼女は言います。


『うん!私にとっては、
 再出発的な感じやけど、
 寂しくなくて良いもん!』


僕はパソコンの前で、
思わず笑ってしまいました。
これだけ元気があれば大丈夫だなと。


『えーちゃん、
 ありがとうね。
 私、えーちゃんにヒドイ事も言ったのに、
 こんなにいっぱいしてもらったのに…』


僕は言います。


『いいよ。
 だって友達やろ?』


返信が少し遅くなります。
その間、
僕は思わずソワソワしてしまいました。


友達は早かったか?


やっちまったか?


どうしよう…?


するとしばらくして彼女からメールが。


『ゴメン!
 お父さんと電話してた!』


ズッコケそうになり、
ホッと胸を撫で下ろし、
先の文章を読みました。


『もしかしてえーちゃん、
 友達って書いて、
 私が返信しないもんだから、
 ドキドキしたんじゃない!?』


ギクッ(゚o゚;;


ど、どうしてそれを…


震える手を抑えつつ、
返信しました。


『そんなわけないやん!
 何を言うてんねんな!
 困った奴やで』


するとまた返信が来なくなりました。


今度は待てど暮らせど、
一向に返信が来ません。


うっつらうっつら眠りに入り、
翌朝パソコンの前で目を覚まし、
早速メールボックスを見ると、
朝の7時に彼女からメールが。。。





『年の離れたお友達のえーちゃん、
 おはようございますです。
 ビックリした?
 ドキドキした?
 恋愛の心理学って本にさ、
 相手が痛いとこ突かれて、
 2~3言葉否定の言葉使ったら、
 連絡を絶って、
 翌朝優しく連絡してあげましょう、
 って書いててん!
 どう?
 惚れた?』


僕は違う意味で、
この日は返信してやりませんでした。


誰だ、
あんな小悪魔テクを教える本書いたの!


今度じっくり見てみよう。





とにもかくにも、
彼女は順調に治療に向かい、
2ヶ月で回復という、
驚異的なスピードで通院治療を終えました。


その背景にあったのは、
結局別居しても、
日曜日には家族で出かけ、
今までのぶん、
お父さんは娘に頻繁にメールをしたり、
一緒に食事に出かけたり、
お母さんは娘と一緒に習い事をしたり、
ショッピングに出かけたり、
そういう事ができる生活に戻ったという、
一番の薬を手に入れた事が、
何より重要事項だったんでしょうね。


彼女は無事、
高校を卒業し、
大学も合格しました。


人生、
諦めてはいけませんね。


どんなに辛くても、
諦めたらそこで、
試合終了です(by 安西監督)!