昨日は、

オリックスバッファローズの清原選手の引退に際し、

僕も涙が止まらない次第でありました。



天国の仰木監督への感謝の言葉や、

長男が泣きながら花束を渡すシーンなど、

こらえきれないものがありました。



そして、

因縁あった王監督との和解。



『来世で一緒にプレーしよう!

 ホームランを打とう!』



その言葉の意味深さに、

僕は耐え切れず泣いていました。







夜の世界にも引退があります。



風俗やキャバクラで働いている方の多くは、

いつ、どのタイミングで引退するか、

それを考えていない方はいないんじゃないかな。



相談者の多くは夜の世界にいますが、

その全ての子ども達、

いやもう青年ですね。

青年達が、

自分のケジメとして、

どう引退するか、

いつ引退するかなどを考えています。



色んなタイミングがあります。



結婚というタイミングもあれば、

逆にそれがスタートになる事もありますし、

また、予定していた金額が貯まったので、

自分で店を持つタイミングもあります。



それらはほとんど、

相手や支援者の必要な引退です。



なかなかキッパリとはいかない場合も多々あります。



No,1にもなれば、

店の都合なども関係しますしね。



清原選手のような花道がある場合もあれば、

決別という引退もあります。



誰もが考えながら、

思うようにいくのは一握り。

そういう葛藤に、

僕は多々出会ってきました。




ユウリはミナミの某キャバクラの、

指名No,1でした。



26歳。



キャバ嬢としては、

次世代がどんどん入店し、

めきめきと上客が付いてくる危機感と戦いながら、

何とか1位をキープしていました。



よく『枕』という、

客と夜を共にしてNo,1の地位を守る人もいますが、

ユウリはそれをしなかった。



ゆえに、

細心の心配りと、

接客サービスの質を上げる事に、

また美しくある事に余念はありませんでした。



そういう子が相談してくる事は珍しいのですが、

彼女もそのプレッシャーと戦い、

いつか疲れてしまっていたんですね。



ユウリとの出会いは、

メールではありませんでした。



彼女の後輩で、

店でもかわいがっている子が、

僕の相談者でした。



ユウリはまず、

眠れなくなり、

体調を崩す事が増えましたが、

No,1を譲りたくはありません。



体調不良のまま、

仕事に出る事など当たり前でした。



それから食事が喉を通らなくなりました。



気が付けば、

身長165cm。

体重35kg…



美しさは、

病的な印象を与えるものへと変化し、

彼女はNo,1の座から落ちました。

そして、

家から出れなくなってしまいました。



彼女の後輩が僕にメールをくれました。



『尊敬する先輩が、

 どうも最近おかしい。

 何とか助けてあげたい。

 力を貸して』



この子がそう言えるようになった喜びと、

ユウリの変調が気になり、

すぐに駆けつけました。



家には後輩しか入れず、

僕は『下心のある男』という非難を受けました。



ユウリの精神状態が、

いかに危険かうかがい知れました。



僕は後輩と一緒に家に行き、

彼女の家の前で待つという日々を送りました。



時間が許す限り家の前にいました。



そして、

後輩が中から電話をしてくれます。



『栄チャン、

 ゴメンな…

 ユウリさん、

 どうしても会いたくないって…』



『いいよ(^-^)

 でも、一度だけ電話で良いから、

 声を聞かせてもらえないか聞いてほしい』



『わかった』



しばしの沈黙、

後輩も色々と僕の説明をしてくれたみたいです。



電話の向こうで声がしました。



『…なんですか…』



ユウリでした。



『ユウリさんですか?

 よかった。

 声が聞けた。

 僕はこれで結構です。

 また明日来ますんで、

 一日一回で結構ですから、

 声を聞かせてください』



そう言って帰りました。



それから1ヶ月は同じ事が続きました。



僕の推測として、

彼女はNo,1から落ちた時、

何らかの裏切りにあったんじゃないか?

と思っていました。



やはりそうでした。



自分をちやほやしていた黒服さん達が、

No,2の方に鞍替えしたのでした。



一番信用していた彼と、

夜をともにした事もあったそうです。

色んな相談もしました。



その情報が、

全て相手側にもれていた。



彼女はそれ以来、

人を信用できなくなってしまい、

僕という男性に会うのが怖かったようです。



僕は結局、

家の前に立つだけで、

一声聞くという生活を、

半年続けました。



そして、

その頃に少し体調を崩し、

行けない日が3日続いた時でした。



後輩がメールをくれました。



『ユウリさんが、

 栄チャンは今日は来ないのか?

 って聞いてたよ?』



思いが届いたという気がしました。



何事も諦めてはいけない。

押してばかりではいけないけど、

信念を貫く事で、

誠意が伝わるなら、

半年など短い時間です。



体調が回復してすぐに家に行きました。



ユウリは家に招いてくれました。



キレイな部屋。

しかし、

この維持費だけで、

今は無職のユウリは、

貯蓄を切り崩さないといけません。



『会うのははじめましてですね。

 谷川です。

 今日は一緒に遊びましょう』



突然の切り出しに、

ユウリも驚いた表情でした。



僕ら3人はカードゲームをしました。

ポーカー、ブラックジャック、大貧民。



ユウリはさすが、

No,1だけあって、

こういうゲームがあるところに、

しばしばお客さんと行っていたそうで、

かなり強かった。



ひとしきり遊んだ後、

食事にしようという話になり、

僕が食事を作ると申し出ました。



僕は意外に料理が得意です。



ユウリの体調なども考え、



『ビックリするぐらい美味しいお粥』



を作る事に。



エビ、ホタテ、イカを使い、

白髪ねぎを添えて、

塩味の白湯スープでお粥を完成させました。


付け合せには、

僕の家の近所に住む韓国人のおばちゃんからもらった、

ザーサイでした。



後輩がまず食べます。



ビックリした顔で『美味しい』と言ってくれました。



ユウリはなかなか手をつけれません。

食べてももどすんじゃないかと、

緊張しています。



声をかけました。



『ユウリさん、

 そういえばエグザイルのファンやんね?

 何の曲が好き?』



『え…

 あぁ…

 Song for you かな…』



僕はCDボックスの中から、

目当ての曲を取り出し、

部屋に音楽を流しました。



そして、

この音楽を聴きながら、

ライブが近々あるねぇとか、

オカザイルって知ってる?とか、

色んな話をしながら、

後輩とユウリを含め、

3人で食べながら話をしました。



そうすると、

誰が好きだとか、

どのライブが良かったとか、

色んな話をしながら、

自然とユウリが食べてくれました。



2人に見つめられながら食べるより、

リラックスした状態で、

気を許しながら他の2人の行動を真似る、

これなら食べれると思ったからです。



ユウリは食べました。



そしておかわりをしてくれました。







ユウリの体重が44kgになり、

エステに通えるようになり、

外に出れるようになりました。



そしてユウリが言います。



『ケジメつけてくるわ』



彼女は何と、

以前の店に再入店する事を決意しました。



オーナーに何とか計らってもらい、

彼女は復帰しました。



そして、

精力的に営業を重ねます。

もちろんポリシー通り、

枕はしません。



彼女はたった1ヶ月で、

No,2にのし上がりました。



そして翌月、

彼女の支援者だった人達が帰ってきました。



圧倒的な大差をつけた逆転No,1返り咲き。



彼女のエネルギーには驚かされました。



そしてNo,1に返り咲いて、

特別報奨が出るミーティングの時、

彼女は言いました。



『私、引退します。

 No,1のままね』



自分を裏切った黒服、

そこから得た情報で彼女を蹴落としたNo,2を一睨み。



目を伏せるしかできない相手に言いました。



『色々勉強になったよ。

 ありがとうね。

 オーナー、長らくお世話になりました』



引き止める言葉を振り切り、

肩で風を切って颯爽と引退したユウリ。



僕と後輩は、

ささやかな引退記念パーティーを開きました。



後輩に頼んで、

彼女を本当に応援していた支援者だけを集め、

梅田のラウンジを貸切ました。



ユウリが店に入ってきます。

いっせいに照明をたき、

カメラのフラッシュとクラッカーが鳴ります。



『引退おめでとう!!

 ユウリ!!』



彼女の実力から言えば、

もっと華やかでお金のかかった引退式にすべきでしたが、

ユウリは言います。



『栄チャン、

 お金じゃないんよ。

 皆がお金出し合って、

 作ってくれた式やで。

 これ以上ない豪華な引退やわ。

 最高!!』



小さなラウンジで、

精一杯飾りつけした引退式は、

盛大に盛り上がりました。



今日はユウリがお客様。

僕や支援者がホスト役。

ヘルプには後輩。

彼女の労をねぎらい、

夜は更けていきました。



ガランとした店内を見渡し、

ユウリがため息をつきます。



『栄チャン、

 ホンマにありがとうね。

 こんな嬉しい事はないわ。

 私、これから頑張るよ。

 保育士になりたいねん。

 頑張って保育士になって、

 お父さん達をメロメロにしてやるッ!!』



『えぇ…

 マジかよ…

 それはそれで問題になりそうやなぁ…』



そして彼女が言いました。



『栄チャン、

 もう一回あのお粥作ってよ』



『え?』



『どんな味になってもいいから、

 もう一回作って?』



『いいけど…

 まぁ待っときや』



彼女はお粥を美味しいと言って食べました。



引退式の締めが、

お粥だなんて味気ないけど、

彼女は喜んでくれました。



ユウリは今、

某大学に通って保育の勉強をしています。



その風格から、

学生諸君から『女王』と呼ばれていました。



ユウリは言います。



『やっぱ、

 やりたい事やるためには、

 ケジメつけないとね』



実は昨日、

ユウリと後輩と一緒に、

清原選手の引退セレモニーを見ていました。



3人で涙と鼻水だら流し…

汚い絵でしたが、

夕飯はやはりお粥で、

楽しくお食事できました(^-^)