『AVに出演が決まりました』
というメールが来ました。
彼女が中学の頃から相談に乗ってた子で、
当時はクラブで引っ掛けた男と、
ほぼ毎日夜をともにしていた女の子でした。
義理の親も知ってるようで、
絶縁状態だと言います。
契約も済み、
メールの翌日には撮影に入ると、
手の打ちようのない状態での相談…
どれだけ説得しても、
彼女は聞き入れないでしょう。
こんな時、
どう言えば良いか、
僕はまだ知らなかった…
結局彼女はAVに出演し、
DVDが発売になる度に僕に
『よかったら見てね』
と、
現物を送ってきました。
封も開けずに置いています。
見たくないから。。。
救えなかった相談者の姿を、
こういう形では見たくなかったから…
彼女は瞬く間に売れっ子になり、
雑誌などにも出るようになりました。
その度に胸が痛み、
自分の力不足を痛感し、
目を伏せる日々が続きました。
そんなある日、
彼女からメールが来ました。
『今新大阪に着いたよ。
時間あったら会えないかなぁ?』
辛かったけど、
逃げたくなかった僕は、
彼女を迎えに駅まで行きました。
新幹線の改札に、
一目で彼女とわかる人が立っていました。
周囲を見てみると、
男連中がヒソヒソ話をし、
彼女に気付いているようでした。
こちらを見つけた彼女は、
高そうなバッグを落としながら駆け寄り、
抱き着いてきました。
『ゴメンな…
ゴメンな…えーちゃん…』
一目も憚らず泣く彼女には、
何も言えませんでした。
ホテルまで送り、
部屋で少し話をしました。
『東京はどうや?
大阪ほど暑いか?』
『…うん』
歯切れ悪い会話になってしまい、
取り繕うように話を吹っかけましたが、
彼女は俯いて、
短い返事をするだけでした。
沈黙に至るのに、
さほど時間はかかりませんでした。
こういう時の沈黙は体に悪い。
その場から立ち去りたい衝動に駆られ、
彼女の言葉を待ちました。
突然
『えーちゃんも同じなんや…』
と言われ、
『ん?何が?』
と聞くと、
こう答えられました。
『えーちゃんも、
AVに出てる人間とは、
距離置くんやね!!』
彼女は目に涙を浮かべながら、
声を荒げだしました。
『汚れてるとか、
ヤリマンだとか思ってるんやろ!?
良いよ、
軽蔑してくれて良いし、
どう思われても良いし!!』
急な展開に驚いてしまいました。
『どうしたんや!?
急に何を言い出すんや…
俺がいつ君を軽蔑した?』
『じゃぁ何で怒ってくれへんのよ!
あれだけ想像乗ってくれてたのに、
何で裏切るような事したウチに、
何も言わへんのよ!!』
そうか…
ずっと気にしてくれてたんやなぁ…
彼女の繊細さを忘れていたわけじゃない。
ただ、
自分は彼女を助けられなかったという、
変な自責の念が、
会話をたどたどしくさせていました。
『怒ったらリセットできるんか?
AVに出てない事にできるんか?
怒ったところで、
過去の筋書が変わるわけじゃないやろ。
だから怒る必要ないねん』
そう言って、
頭を撫でました。
ゴメンな…
気にしてくれてるん、
理解できてなかったわ…
そんな思いでいっぱいになりました。
泣き崩れる彼女を起こしました。
『ウチなぁ…
どうしても有名になりたかった。
どんな手ぇ使っても、
有名になりたかった。
でもな、
有名になって何がしたいんか、
それがなかった…
ウチ、
何のために汚れたんやろ…』
抱きしめて、
背中を摩りながら、
僕は言いました。
『ずっと言うてたもんなぁ。
有名になりたいって』
『えーちゃんは言うてくれたやん?
有名になって何ができるんやって。
あの時真剣に考えてたらよかったわ…』
『俺としては嬉しいとは言えんけど、
一応有名にはなったやん?
これから探したら良いやんか。
一緒に探そうや』
『裏切り者やで?
えーちゃんはずっと、
AVだけはダメって言うてたやん…
でも出てもうたし、
もう嫌いやろ?』
『嫌う理由はないよ。
AVに出てたんやろ?
それがお前の価値を下げるとは、
俺は思わんよ』
『ホンマ…?』
『ホンマやで』
そう言って少し落ち着きました。
目が腫れてるし、
顔もバレるからとサングラスをして、
久しぶりに大阪の街を歩きました。
『変わらんなぁ、
大阪は』
少しずつ気持ちも晴れてきたのか、
彼女の足取りもしっかりしてきました。
昔よく行っていたクラブで、
無理矢理一緒にパラパラを踊らされ、
そこに彼女が昔働いていた風俗店の後輩、
五人が合流…
結局朝方に帰る羽目になりました。
ホテルに送る前に、
自宅に寄って、
彼女から送られてきたAVを、
彼女に返しました。
『全部封開けてないやん!
一本も見てくれてないん?』
『当たり前や。
お前の裸なんか見たって、
妹の裸見てるようなモンやし、
妹がそういうことしてるん、
見たいと思う変態兄貴やないで』
複雑な感情が顔に出ていました。
僕は、
彼女の仕事を認める認めないじゃなく、
出演しているビデオを、
見て喜べる神経は持っていないだけです。
『えーちゃん、
もしかしてED?
もしくはホモ?』
『ドアホ!!』
笑いながら部屋に帰って行きました。
その日、
彼女からメールが届きました。
『えーちゃん、
長くなるけどゴメンね。
いっぱい相談に乗ってもらってたのに、
えーちゃん裏切るような事してゴメン。
一生許してもらえんと思ってたけど、
いっぱい遊んでくれてありがとう。
ウチは知っての通り、
昔、男にダマされて、
風俗で働かされてました。
男を見返したかったし、
アイツが手の届かん高嶺の花になるため、
有名になってやるって思ってた。
結局は良いようにダマされてた女が、
逆立ちしても芸能界には入れんし、
ウチみたいなんが有名になるためには、
AVしかないって思った。
色んな男と寝た事が、
誰に自慢できる話やないのに、
ウチを抱きたいと思ってるヤツに、
施しのつもりで抱かせてたはずやった。
えーちゃんにはすぐ見抜かれたけど、
やっぱウチは、
親に捨てられた寂しさが、
セックスしてる時だけ晴れてたんかも。
いつかえーちゃんが言うてた、
セックス依存症ってやつかな。
セックスでしか、
他人の価値は計れんかったし、
自分の価値も見出だせんかった。
ウチ、
しばらく休暇取る。
で、治療できんねやったらする。
良い病院あったら教えてな。
わがまま聞いてくれるんやったら、
一緒にこれからの事考えようって、
えーちゃん言ってくれたやろ?
お願いします。
一緒に考えてください。
もう裏切ったりせんし、
今までの男の中で唯一、
一緒に泊まっても、
ウチを抱けへんかったえーちゃんは、
ホンマにお兄ちゃんみたいです。
ホンマにお兄ちゃんになってほしいわ』
僕は彼女がセックス依存症と知ってた。
だからAVだけは反対したし、
風俗も反対した。
職業差別じゃなく、
彼女だから反対した。
でも助けられなかった後悔が、
こういう形で実を結んだ事は、
僕にとっても大きな一歩だったと思う。
作品として世に出てしまった、
何百本というAV。
出てしまった事実も、
してきた事も隠せない。
親は相変わらず絶縁状態だし、
僕が本当の兄になれるかはわからなけど、
できる事をしていこうと思います。
彼女は療養も済み、
しばらくは活動をしてませんでしたが、
CDを出したり、
テレビやラジオに出るようになり、
今はタレントとして活動しています。
AVは卒業しました。
『AVは見てくれへんけど、
映画なら見てくれるやろ?』
そう言って東京に戻った彼女。
まさかタレントになるとは…
大阪に帰ってきたら、
また一緒にパラパラを踊る約束と、
彼女が出したCDは暗記して歌う約束です。
約束は果たす男、
谷川栄一。
32歳のオッサンには、
かなりキツい歌詞なんすけど…
頑張るよ(^-^)