サチ(仮名)は、
小学校の高学年の頃、
自分の性がお金になる事を知りました。
散髪屋のおじさんが言いました。
『さっちゃん、
散髪代がそのままおこづかいになる方法、
おじさんが教えてあげようか?』
中学の頃に習っていたピアノ教室では、
先生から、
外に出せば妊娠しないと教えられ、
初潮の遅かった彼女は、
ピアノの月謝をおこづかいにしながら、
ゴムを付けずにSEXしていました。
高校に入り、
先輩のすすめでウリを始め、
いつもブランド品で身を飾り、
堕胎手術を3度受けました。
母親はそれを知り、
稼いだお金のうち半分を、
家に入れろと言ってきたそうです。
彼女と知り合ったのは、
彼女の身を案じた、
年の離れた妹さんからの相談メールでした。
妹さんから詳しく話を聞き、
僕はサチに会う事になりました。
駅前で待ち合わせ、
言った通りの服装の彼女が現れました。
いきなり腕を組んできて、
僕の顔を覗き込み、
指を4本立てて、
『アレ付けないならこれね』
と指を5本立てました。
彼女の値段です。
僕は妹さんの話はせずに、
今日は話をしたいと言いました。
近くのカフェで他愛もない話をし、
ある程度ほぐれてきてから切り出しました。
『どうしてウリとかしてんの?』
彼女は顔色を変えずに言いました。
『何が悪いの?』
僕は言いました。
『そっかぁ。
悪いとは思ってるんや』
無表情だった彼女の顔が変わります。
『は?
アンタ話聞いてる?
私は何が悪いのかって聞いてんの!』
僕は涼しげに言いました。
『悪い事するのやめなさいなんて、
一回も言ってないのに、
えらく防御してるから…』
『ワケわかんない…
何もないならもう帰るよ!!』
後を追うと痴漢呼ばわりされて困るだけ。
僕は距離を開けて着いて行きました。
途中ケータイをかけていたので、
次の客が来るなと思い、
しばらく待っていました。
数分後、
サラリーマン風の男が車で現れ、
彼女を乗せようとしていました。
素早く近づき、
助手席に気を取られているスキに、
運転席側のドアを開け、
キーを抜きました。
『はい、オッサン、
児童ポルノ法違反、
ならびに買春容疑でタイホだな』
付け足しに小声で、
『俺が警察ならね』
とつぶやく事も忘れずね。
オッサンは慌てて彼女を助手席から突き飛ばし、
自分だけ助かろうと、
車のキーを奪いにきました。
しかし、
ナンプレ覚えたし、
すぐケータイのメモ機能に書いたし、
後でいくらでも処罰を受けさせれます。
置いてきぼりのサチは、
ポカンとしながら、
突然笑い出しました。
『何だよ、
やっぱ抱きたくなったかよ!
最初からそう言えばよかったんだよ!』
僕は言いました。
『ガキ抱いて楽しむ趣味はない。
さ、アンタを買わせてもらうよ?』
僕は彼女との時間を買いました。
1時間100円。
もちろんサチは怒りましたが、
諦めたようで、
黙って一日付き合いました。
僕らの出会いは最悪だったかもしれない。
少なくともサチには最悪だったでしょう。
僕は自分の趣味に付き合わせ、
バイクでツーリング。
本屋、楽器屋、
映画に夜景スポットと、
一日中引っ張り回しました。
『さ、そろそろ帰るか』
と言うと、
サチは言いました。
『帰るとこない』
『ん?家は?』
『ババァいるから帰りたくない』
うつむいて言うサチは、
本当に苦しそうでした。
『そっか。
じゃあ俺が泊まるよ。
ただし約束な。
明日の朝食はサチが作るんやぞ』
サチは目をパチクリして、
呆れたように言いました。
『は?
ワケわかんな過ぎだって。
頭わいてんじゃないの?』
『残念ながら、
人間の頭を沸騰させるには、
気温が低すぎるようやわ』
サチは本気で殴りかかってきました。
僕は受け止めました。
『何だよオマエ!
何がわかんだよ!
オマエなんか死んじゃえ!!』
ヒョイと抱き上げ、
バイクの後ろに乗せました。
『わからんよ。
だから、
今からわかりに行くんやないか』
僕はバイクを走らせ、
サチの家に行きました。
家に入るなり、
『お邪魔しまぁ~す』
と大声で叫びながら入って行きました。
2階建ての小さな家でした。
1階は母親。
2階はサチと妹の部屋。
母親がびっくりして出てきました。
『…どちら様?』
サチは顔を背け、
黙って走って2階へ。
『友達です』
母親の目を真剣に見つめ、
それ以上は言いませんでした。
『ど、どうぞ…』
僕はお礼を言い、
サチの部屋に行きました。
彼女は布団に潜り込んでいました。
何を話しかけても返事しません。
当たり前ですよね。
しばらく一人で勝手に話しかけ、
ネタも尽きてきたので、
天岩戸(アマノイワト)作戦に出ました。
部屋を物色します。
『サチぃ、良いのか?
昔のアルバムとか見つけちゃうぞ~』
布団がプルプル振るえています。
『あ、見つけた!』
と嘘吹いた時、
サチは布団を放り投げ、
突進してきました。
またヒョイと担ぎ上げ、
ベッドサイドに座らせました。
『さぁ、観念しろ。
今日は一日、
おまえの話聞いてやる』
最初は『ウルセェ!ジジィ』とか言われましたが、
話しかけていくうちに、
ぽつぽつ話してくれるようになりました。
散髪屋の事、
ピアノの先生の事、
ウリの事。
サチは悲しみを含んだ目で、
他人事のように事実を話してくれました。
深夜2時。
家族が寝静まった頃、
こっそり銭湯に行き、
帰りにラーメンを食べてきました。
『アンタさぁ、
今日初対面だよ?
犯罪スレスレじゃない?』
『スレスレなだけで、
犯罪ではない』
そう答えた時、
サチは
『ハハ…バカバカしい…』
そう言って笑いました。
その日はほとんど寝ないまま、
5時過ぎまでしゃべっていました。
歳食ってる僕は、
耐え切れず寝てしまいました。
翌朝、
ベッド横のテーブルには、
なかなか見栄えする朝食が並んでいました。
サチは
『約束守ったからね。
次はアンタが約束守れよ』
彼女から出された約束は、
『………なって…』
『なに?聞こえない!』
『友達になって!!』
僕は今もその約束を守っています。
何度か家に泊まりに行きましたが、
母親に自分がした事を自覚させる事に、
ほとんど費やしました。
散髪屋にも行きました。
ピアノ教室にも行きました。
それぞれがサチに謝罪し、
サチは
『オマエら全員クズだな』
と、気丈に振る舞っていましたが、
やはり二人きりになると、
辛かったと泣いていました。
高校3年の春。
彼女はウリをやめました。
世間では、
ウリをしている子ども達を、
まるで汚いものを見るような目で見る。
ふしだらだ、
淫乱だ、
ヤリマンだ何だと、
好き放題言っては切り捨てる。
僕にはそんな人達が、
子ども達に何の役にも立っていないと見える。
批判ばかりして、
誰も問題解決しようとしない。
その言葉の数だけ傷つき、
時間が過ぎ、
手遅れになるだけ。
僕はそういう、
意味のない事をするのをやめた。
傷ついた子ども達と、
友達になり、
一緒に問題解決のために寄り添うだけ。
それだけで人が変われるなら、
愚痴ってるだけの人よりは、
良い人生じゃないかな。
サチは今、
大学4回生。
舞台女優目指し、
レッスンの毎日です。