こんにちは、本日はお招きいただきましてありがとうございます。短い時間ですがよろしくお願いいたします。林さんとお知り合いにならしていただいた時には私の頭の上はもっと黒々してました。とても今のようなことを考える年ではなかったんですが近頃はどこへ行っても少子高齢化ということです。私が今住んでます平城ニュータウンは、高の原駅ができたのは実は昭和47年から開発の始まった新しい街なんでが、今急速に、少子高齢化が進んでいます。幼稚園なんか、今年の入園者はわずか7人なんですね。もう、すごいスピードで少子化が進んでいます。
ところで、少子高齢化と言いますけど、何歳まで生きるのでしょうね。まあ、何となく、男だったら平均寿命の80位かなと思ってる方が多いんじゃないでしょうか。実はイギリスのエコノミスト社が出したレポートでは富裕な国では2050年、今から35年先には、多くの人が100歳まで生きるだろうと言っています。2050年といえば、私は102歳になります。多分、私も生きているだろうと思っています。そうすると「老い支度の法律相談」なんて話、必要なしかどうかわかりませんが、林さんから、「相続が争続」にならないような話をするようにということを言われてきましたので、遺産相続等の話をさせていただきます。
相続が法律上どうなってるか、そういうことが前提になるんですが、与えられた時間30分ですのでこれを全部話したらとても30分で話ことはできません。それで、若干皆さんが気づいておられないようなことを中心に本日は話させていただきたいと思っています。
まず、今年は戦後70年です。けれどもいまだに家督相続という発想の方がおられるんですね。「うちの娘、もう嫁に行って、姓変わってるんですけど、この子にも相続権ありますやろか」とそういう質問をいまだにされる方があります。それは戦前の家督相続の時代、家制度の時代の発想ですね。戦後は家制度がなくなりました。だから当然家督相続ということもなくなって財産相続なんですね。だから結婚して家を出ているとか、或いは姓が違うかとか、そんなことは全く関係がありません。単に「身分関係」だけで相続権が発生する、発生しないということになります。
次に相続されるのは何かということなんですが大体皆さんが頭に浮かぶのは「ようけ財産入って来たらええのになぁ」と、そちらを思われるんですね。ところがそれだけじゃないんです。権利があるところには裏として「義務」もあります。だから亡くなられた方が債務をも負っておられたらその債務の方も相続の対象となります。気をつけてもらわんといかんのが「保証債務」なんです。亡くなったお父さんが誰か知り合いに頼まれて事業資金、何千万借りるのに「保証人になってくれへんか。」と頼まれていた。「絶対迷惑をかけへんから。」と言われておられたので、それを信じて気にしておられなかった。だいたい保証人になってくれと頼む人は、迷惑かけると誰もいませんからね。みんな「迷惑掛けない。」と言います。請求を受けた時に「迷惑をかけへんと言われたのに、だまされた。」こんなこと言うたって全然通用しませんからね。保証というのは大体万一のため保証つけるわけですから。
親父が誰かの保証人になっとって、亡くなったらどうなるのかなんですね。亡くなった時点でああ、親父、家やその他財産残してくれた。ああ、よかったな。じゃあ、みんなでこれを分けようかといって遺産の分割をしました。ところが何年か経ってある金融機関から、あなたのお父さんは、誰それさんの借入金の保証されてました。その方がこの度倒産しました。つきましては保証人の相続人であるあなた様に「お支払い」をお願いいたします。そういうことが来るんですね。だから保証されてる場合にはやはり保証人になってるということをちょっと言うといたらんとあかんのです。この人が沢山の財産残しはって、、保証の金額は少なかったら、プラスとマイナスを比べたら相続するプラスの方が多いのでいいんですけども、逆に何百かぐらいの遺産しかなくて保証債務の方が多かった。とても払えないとなると破産せんとあかんということになってしまいます。実はこういう例も見てるんです。あるんですね。そういうことが。だからぜひ気をつけてください。
次に契約上の地位これもよく聞かれますが、「家を貸していた。借りていた人はこの間亡くなられた。そやから返してもらえますか。」そういう人があります。借家人、或いは借地人という契約者としての地位は相続の対象となります。だから普通に第三者に又貸しするのとは全然違うんです。又貸しする、或いは借家権・借地権を譲渡するということとは違います。相続の場合、契約上の地位が当然移転しますので返してくださいということはできません。
相続されない権利義務一つは祭祀財産、墓地とかと仏壇、神棚などです。じゃ、どうなるのかというと現に祭祀をしている人が誰かを指定しておれば指定通りになります。指定がされてない場合には慣習によることになります。昔だったら大体長男が家を継いでいるから、家を継ぐ人が祭祀承継者という慣習が認められました。今はだんだん家族もバラバラになってきていますので、慣習がわからないようになるんですね。最近はこの祭祀財産の承継が争いとなっていることがよくあります。取り合いではありません。だいたい押し付け合いなんですね。田舎に墓が残ってる。みんな都会に出てしまっているのでいろいろお寺の関係でも物入りや。お兄ちゃんあんた、長男やから大阪へ出てるけどもちゃんと面倒を見てやとか、そういうことで今の時代は誰がそういうものを引き継ぐのか、非常にシビアな問題があります。
2人に2人以上の子供が生まれていたらまあ、誰か継ぐ人が順番に出てくるでしょうけども、2人で2人未満の子供が生まれなかったら墓守りやとかする人は足らないのですね。あんまり守ってもらえてそうじゃなかったら生きているうちに守ってもらいやすいような形にしておくとか、いや、笑うたはりますけどね、いろいろあるんですよ、どこかへ預けとくわとか、永代供養に入れてもらうとか、あるいは誰が後、面倒みてくれるという、だからその分財産についてはこんだけお前が取ったらいいというふうに遺言書で書いておこうとか、何かの手当をしとかんとこの祭祀財産の承継についてトラブルが起こってくるだろうと思います。相続であって相続でないのに生命保険金、死亡保険金があります。これは相続でないというのは受取人が契約で決まっています。だから分割の対象にはならない。そういうことです。(税法上は、みなし相続財産とされます)退職金受給権もその会社の規定で決まっています。
義務の方のも相続しますからプラス財産よりマイナスの方が大きい場合どうすればいいかということなんですが相続開始を知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所に相続の放棄の手続をします。理由は何もいりません。単に相続の放棄をしたいと言えばそれだけでいいわけです。原則として3ヶ月以内ですが、例えば先程、親父が保証していた、亡くなってから2年後ぐらいに金融機関から保証人のところへ払えと言ってこられた。そういう場合にも亡くなってから3ヶ月過ぎているんですが放棄を出来る場合があります。
そういう負債があるということを知らずに、かつ遺産を取得してなかった場合は可能です。だから亡くなった人が中途半端に財産何も持たずに借金だけ持って死んでくれはったら、何年か後にこんな借金があるということがわかったら3ヶ月過ぎていても相続を放棄できます。実は、つい先日も私そういうことで1年以上前に亡くなった方の相続人の放棄の手続きをしました。ただ、なんぼ借金沢山あっても、すでに遺産を取得してしまっておられたらその場合は放棄はできません。
そうすると次に、何となく借金もありそうなんやけども、財産もある。こんな時どうしたらいいんですかね。はっきり分かっていたらそのプラスマイナス計算して放棄するなりしたらいいんですが借金があるか、わからんけども、ないかもわからん。借金ないのに放棄してしまった。えらいもったいないことになります。国に入ってしまいます。そうかといって借金があったら困るし。そういう場合のために限定承認という制度があります。これは法定相続人全員がそろって、借金がもしあれば財産を相続した限度で皆さんにお支払いしますという制度です。だから遺産全部整理して、例えば遺産1000万あった。で、公告したりして債権者を探すんです。借金が500万だけだったら500万払って残りの500万を相続人がもらえるということになります。逆に遺産が1000万なのに借金の方が2000万あった。こういう場合は遺産を処分した1000万を債権者に配当して、それで終わりです。それ以上の責任は負わなくていいというのが限定承認という制度です。まあ、そういう微妙な時にはこういう制度を是非使われたらと思います。これも3か月以内にしなければなりません。
誰が相続するだとか、どれぐらい、どういう割合で相続するかとか、この辺のことは皆さんご存知のところだと思いますので省略します。法律が決めてる法定相続分なんかも参考にしながら法定相続人全員で分割の話をされるということになりますがどういうふうに分けるかということですね。お金ばっかりだったら分けやすいですね。ところが困ったことに自宅とか、そういう不動産なんかがある場合ですね。不動産、同じようなものが沢山あればどれを誰が取るのということを決めますが自宅だけしかないという場合、自宅しかないのに子供が2人おる。その時どうしますか。家を半分に割ったって困ってしまいますので、そういう時には全部を売却してお金を分けるとか、或いは一人の人がそのものを取得して対価、お金を他の人に払うとか、そういうことをすることになります。相続人の誰かが、生前に沢山のお金もらっているというケースもよくあります。それを無視して分けていいのかというとそれはやはり不公平ですね。だから相続開始前にまとまった財産をもらっておられるような場合にはそれを特別受益と言いまして相続開始の時の時価で評価して遺産に加えて計算するということになります。逆に親の事業をほとんど給料ももらわずに一生懸命手伝っていた。その結果、事業で得たお金は親の名前で蓄えられていた。そのように親に貢献してきた人の貢献を無視していいのかというとそれもやはり不公平でしょうから被相続人の財産の維持とか形成に寄与した人がある場合にはその分を遺産から除外して計算する制度があります。それが「寄与分」と言われるものであります。
紛争の予防の方法、遺言の話に入ります。どんな場合に、遺言書を書いといた方がいいのか。昔はそんなに遺言を書くという人はなかったんですが今は書く人も増えていますし、現に書く必要が高くなっていると感じています。一つは皆さんの意識が変わってきたということです。昔は家督相続の長男がするという意識が強かったんですけども今はもうそれぞれ法律の通り、それぞれの人が対等の権利があるということで権利の主張をされるようになりました。それと分けにくい遺産があるケースが多いです。遺産としての主なものが自宅であるというケースですね。そうすると複数の相続人がいると非常に分けにくいですね。そういうこともあるので、そういう場合には遺言書で決めといておかれるのがいいんじゃないかということ。
もう一つ最近よくあるのが相続人の中に、連絡を取れないという人が増えています。グローバル化という話がありますけども、アメリカに行ってますねんとか、ひどいケースになったら結婚してアメリカへ行ったんやけども、今それがアメリカのどこにいるのかわからない。私も先日そんなケースを扱いました。日本国内におられたら住民票とかそういうもので所在を追っていけますが、長年外国へ行っておられて連絡をとれない場合にその人がどこにいるのか、探すことは非常に困難です。そうすると相続人全員での協議による遺産分割はできないことになります。全くできないのではなく、不在者財産管理人を家庭裁判所で選任してもらうことになるんですが具体的な分け方として非常に困難なことになります。だから、そういうケースではぜひ遺言書でどう分けるかを決めておかれる必要があるかと思います。
遺言書の方式として多く使われているのが2種類です。自筆証書遺言、公正証書遺言です。自筆証書遺言は全文を自分の手で書かれる必要があります。これについては亡くなった時点で家庭裁判所に検認手続が必要です。公正証書遺言は公証役場で作ってもらいます。宇治でしたら市役所の近くにありますね。そこで書いてもらうというのがあります。自筆証書遺言と公正証書遺言は法律上の効力は一緒なんです。ところが実際に亡くなった後で金融機関で相続の手続き等をする場合にやはり公正証書遺言の方が通りやすいですね。理屈上、遺言書があればその通り金融機関がしてくれたらいいんですけども中にはなんやかんやいうて、もう1回法定相続人全員の印をもらってきてくれと言う金融機関があります。まあ、それやったら何のために書いてもらったのかわからんということになりますがそういうことを避けるために公正証書遺言をしておかれるのが通りやすいと思います。中には極端な内容の遺言書を書かれる人があるんですね。例えば私の頼まれた人は、あるおばあさんで法定相続人としたら、交流のない兄弟一人だったんです。そこで、すべての遺産を社会福祉法人とかそういうところに寄付しますという遺言だったんです。法定相続人については100万円だけ渡すという、そういう遺言書だったんです。そうするとその法定相続人の人は興信所を使って、ほんまにその遺言書通りだったか、本当にその人が自分の意思で書いたのかと、証人で且つ遺言執行者に指定されていた私のところまで調べに来られたこともありました。自筆証書遺言で作っておくと、それが本当にその人の意思で、自由な意思で書かれたのかどうかということを証明することが難しくなります。
争いが起こりそうな内容の場合には公証人に作っておいてもらうのがいいかと思います。その場合には証人を2人一緒に行くことになりますので、より間違いないということになるかと思います。
遺言する場合に何を考慮しておかれるべきか、なんですが特に自筆証書遺言で書かれる場合は内容を明確にしておかれること。当たり前のことなんですが、失敗されることがあります。一例ですが、お子さんのないご夫婦のご主人が、全部の財産を奥さんに相続させようと思っておられたんですね。どこそこのマンションやとか、どこそこ銀行の何々口座の通帳とかね、そういう書き方をされていたんです。ところがそのマンションの表示の仕方がちょっとおかしかった。なになに銀行の何なに口座の「通帳」と書かれてたんです。通帳と言ったら紙切れにしかならないのです。通帳もらっても何の意味もありません。通帳記載されているお金を引き出す権利をもらわんことにはあかんですね。中途半端に勉強した方が間違われることになりやすいんですね。自筆証書遺言に書かれた場合には書いたあと、念のために我々弁護士なりに、「これ本当に間違いないか、いいか」というのを確認してもらう方が良いということです。
それと「遺留分」を考慮しておくこと。遺留分とは遺言書で例えば法定相続人の1人の人に全部あげると書いてあっても他の人も一定の割合に、子供だったら法定相続人の半分ですけども、くれという権利があります。だから相続人、子供が2人いるのに1人に全部を相続させると書いたらね、もう一人の子が、それでいいと思ってる関係ならいいですけども、そういう例は少なく、どっちも欲しいと思ってるのに1人の子に全部相続させると書いたら、後のは、怒りますわな。親父は何考えとんねん。それはけしからんのはそれを書いた親ですけれど、親父はこの世におりませんので、怒りは全部もらうということになった相手に向かい、「わしにも慰留分をよこせ。」という話になります。だからどうせそういう話が出てくるんだったら遺言書を書く段階でそのことも考慮してちゃんと書いておかれた方が余計な紛争にならないだろうと思います。
それから自筆証書遺言は、自分で書けるんですが、もううちの親末期癌で、もうあと2、3日もつかどうかわからん、そういうケースがあるんですよ。公証人は、病院まで出張してくれるんですが、今日言うて明日行ってくれるか言うたら行ってくれないんです。4日位待たされることがあります。そうするとつい自筆証書遺言ということになりますが、このしんどいのにそんな長い文章よう書かんという人が多いですね。そういう場合は名前だけやったら書けるという人もあります。
どうしますか。「死因贈与契約」というものがあります。私は自分の財産のうち何々(全部も可能)を、自分が死んだとき〇〇にあげます。〇〇も、じゃいただきますという契約です。そういう契約をするだけだったらその意思能力があって署名だけできれば可能ですので時間のゆとりもないような場合にはそういう方法も考えられたらいいのかなと思います。この場合、やはり実印を押して印鑑証明を添付しておかれる方が望ましい。それプラス第三者のしっかりした人にも立ち会ってもらうのが争いを起こさないことになるのかなと思います。
老後、いろいろ問題になりますのは、年老いて周りの家族もおらんようになって一人暮らしになってくるとこれは危ないんですね。寂しくなりますので、つい先日、人から、近所の一人暮らしの80何歳のおばさん、危ない。若い男がよう出入りしているけども、ちょっと1回行ってくれんか。といわれ行ったんです。そしたら3年間にその人の預金1億以上減ってました。それは誰が見たってだまされてると思います。もともとは儲け話からやったんです。完全に信用しきって、可愛い、可愛だった.昔、豊田商事事件がありましたけど、それによく似た感じです。誰か、気軽に相談できるしっかりした方と第三者契約されておかれるといいかと思います。
もう一つ、最近考えておかれるべきこととして、終末期の治療をどこまでしてもらわれるかという問題があります。今、「延命治療は要らん。」そういう方が増えてきていますが、口で言われていただけでは治療現場でお医者さんは困られます。だから具体的に自分はどういう状況でどういう治療まではいらん。そういうことは明確に紙に書いて家族に渡しておかれるとことが大事です。書いてなくて言っておくだけやったら、遺書もそうなんですが効力はありません。一番悪いのは口でお前に何やるということ。そういうことを生前に言うてる親が亡くなった後、これは非常にトラブルがよく起こります。それとはちょっと意味が違いますけども、聞いていた人と聞いていなかった人との間で意見の対立が生じ困ったことになりかねません。ぜひ書いておかれることが大切です。
ご清聴ありがとうございました。