私は自分が口唇口蓋裂で生まれてきたことを知らないまま、高校生になった。
自分の特徴について『何かある…』ということは思っていながら、親は何も言わないし、小さい頃に聞いても、何となくはぐらかされていた気がしていたので、触れてはいけないことのような感覚を持っていた。
そんなある日、私は衝撃的な出来事を経験することになる。
高1の夏、私はひとりで出かけていたときに、ある女性に声をかけられた。
その女性は2歳ぐらいの男の子を連れていて、都会からご主人の実家に帰省に来ていると言っていた。
男の子は色が白く丸い目をした可愛い子で、いかにも都会の子という感じだった。
そして鼻に特徴があり、殆ど目立たないがよく見ると口に傷の跡があった。
私は何となく、今まで避けてきたその話題が出なければいいなぁ…と、何か落ち着かない気持ちを感じていた。
突然、その女性が『この子も、あなたと同じ、○唇なの…』と言ってきた。
そして、私の前で泣き出してしまった。
『○唇???』私には初めて聞く言葉だった。
でも、これが今まで疑問だったことを指すものなんだということはすぐに理解した。
血の気が引いていくのを感じながら、私は泣いている女性を何とかしてあげなければと、そっちに集中した。
男の子は、お母さんの足にまとわりついたり、ぐるぐる回ったり無邪気に遊んでいた。
『いじめられたりしない?』
『友だちはいる?』
『学校は楽しい?』
『傷は気になる?』
女性はいろいろなことを聞いてきた。
私は精一杯楽しそうに、全然問題がないと話し、また自分は中学から運動部に入り、高校でも同じ運動部に入って頑張っていると話した。
女性は、『良かった。あなた本当に元気そうね。いろいろ聞いてしまってごめんなさい。』と言い、そして帰って行った。
女性と別れた後、私は足も動かない程動揺し、そして涙があふれてあふれて止まらなくなってしまった。
家に帰っても、自分の部屋に入って泣き続けた。
分厚い医学全集を調べて、事実を知り、また衝撃を受ける。
親には一切言わなかった。
私が思ったのは、
『自分が生まれた時、両親はどれだけショックだっただろう。
どれだけ悲しんだだろう。
そんな風に生まれてごめんなさい。
本当に悲しませてごめんなさい。』
そういう思いだった。
親を責めるような発想は全くなかったし、今でもそんな気持ちはない。
知って以来、いつも、自分が生まれた時のことを想像し、両親の気持ちを想像し、想像した気持ちで泣いていた。
でも、親には一切話さず、平静を装い、今までと何も変わらないように接していた。
親には絶対に話せないし、話すこともないと思っていた。
普段はよく笑う元気な自分。
でも、ほんの時々、思い出して、誰にも気づかれず、ひとりお布団を被って泣く日があった。
そんな風に高校生活は過ぎて行った。
しかし、後に母と話すことになる、第2の出来事が起こった。
それについては、またいずれ書きたいと思う。