深夜2時過ぎ


彼が家に来た。




ドキドキしながらドアを開けて彼を迎え入れた。



彼の顔をまともに見れなかった。



彼の声のトーンだけが頼りだった。




なんだか…



彼は普通だった。とても。




彼はシャワーを浴びた。



彼の脱ぎ散らかした服が、とても懐かしく、愛おしく思えた。


タバコ臭い上着も、Tシャツも、臭そうな靴下さえも。


私はそれをハンガーにかけたり畳んだりしながら、自分の気持ちを落ち着かせていた。



彼に聞きたいこと


彼がこう言ってきたら、こう返そう


彼との会話のシュミレーションを何度も繰り返していた。




そして彼がシャワーから出てきた。



私は一昨日の電話であんなに取り乱して泣き崩れたのに

彼の前では平然を装っていた。



ボディオイルでマッサージをしていると、彼が先にベッドに入った。


私は彼の方を見ることができず、彼に背を向けたままマッサージを続けた。



すると彼が


「チョコうまかったよ。ありがとね」


と言った。



バレンタインチョコのことなんて、すっかり忘れていた。


むしろどうでもよかった。




そして彼はベッドの中から


「おいで」


と言った。



胸がギュゥ~~~~~~~~~~~~~~~~ってなった。



でも私は「んー…」と言って、マッサージを続けた。


どうしていいかわからなかった。



このまま、彼のいるベッドに入ったら、いつものようにセックスをするの?


彼は電話の一件について何も言ってこない。


ただ、いつものように 「おいで」 と言う。




そしてマッサージを終えた私はベッドに入った。



彼が私を抱きしめた。



聞きたいこと、彼と話すべきことが、一気に真っ白になってしまった。



それでも、どうしても聞かなくてはいけなかった。




「終わって…ない…?」



おそるおそる彼に聞いた。





「終わってないよ」



彼は答えた。




それまで張り詰めていた細い細い1本の糸のようなものが、切れた瞬間だった。


一気に力が抜け、大泣きした。




「もう終わったんだと思った…」


私がそう言うと



「なんでそんなこと思うんだよ?意味わかんねぇなぁ」


彼は笑って答えた。



「だって…だって…」



そして聞いた。


「めんどくさくない…?」



「めんどくさいとかじゃないよ。俺がこうしたいからしてるんだよ」




抱きしめてくれている彼の腕と胸の温もりが

あまりにも温かすぎて、さらに私を安心させた。




もう何もいらない



そう思った。



彼と終わっていないという事実だけで、充分だった。


それだけで、充分幸せだった。





それまで味わっていた


会えない苦しさも


声を聞けない苦しさも


メールすらできない苦しさも


大嫌いな土日、祝日、連休も



ぜんぶ忘れてしまった。




終わることの苦しさに比べたら、どうってことない


きっと我慢できる



そう思った。