彼と一緒に外に出ると、春の訪れを感じさせるあたたかい風が吹いていた。



「あったかいねー」


「春だね~」


なんて話しながら、彼と手をつないだ。



「何時まで時間大丈夫なの?」と聞くと


「18時くらいかな」と答えた。



なんだかんだ家でダラダラしてしまったから、15時を過ぎてしまっていた。



それでも、どうしても「彼とお出かけ」らしいことをしたかったから


時間がなかったけど、近くの街まで出かけた。





天気のいい土曜日


しかもバレンタイン



街は多くの若者でにぎわっていた。


もちろんカップルらしき人達がたくさん。




私はニヤニヤにやにやしてしまっていたと思う。



私たちも、普通の恋人同士に見えてるのかな?



こんな風に、土曜日の昼間に、手をつないで街中をブラブラしてるなんて


ねぇ、これって、デートかな? デート? デートなの??



えへへ


うふふ



嬉しくて笑いが止まらなかった。



目に映るすべてが、素晴らしくステキに思えた。



なんてことのない時間、ただブラブラしているだけで、


特に行きたい店もなければ、食べたいものもなかったけど


彼と手をつないでただ歩いてるだけで、幸せだった。




隣にいる彼を見ては、この上ない幸せがこみ上げてきて


ずーっとニコニコにこにこしていた。




特に買いたいものもなかったので、カフェに入った。



そしてまったり、お茶をしながらおしゃべりをした。





時間はあっという間に過ぎてしまった。




「じゃあ、あとちょっとブラブラしたら、帰ろうか」と彼が言った。


「うん」


そう答えたけれど


あーあ…もうすぐで終わっちゃう


時間が止まればいいのに…


と思った。




そして、また彼とブラブラしていると、彼がある店で足を止めた。



そこは、雑貨屋だった。


雑貨と言っても、小さなインテリアショップというのかな



外からは、ズラッと並べられたポストカードが見えた。



そして、店頭には、写真やポストカードを飾るらしい


ラック? なんて言ったらいいのかうまく説明できないけど


壁にディスプレイするようなものが売っていた。



彼はその商品に興味を持ち、店を見はじめた。



そして、そのディスプレイラックのようなものを手に取り、


「これ、いいなー」なんて言っていた。




私は嫌な気分になってしまっていた。



でも、作り笑いをして、彼に言ってみた。


「えー?なにそれ。そんなの使うの?」



すると、彼が答えた。


「俺の部屋オシャレだぜ~? これでもっとかっこいいインテリアにするんだよ」





最悪。



聞きたくなかった。




さっきまで幸せの絶頂にいたはずが


一気に落ちた。





「俺の部屋」って、つまりは奥さんと2人で暮らしている「俺たち2人の部屋」でしょ?



たちまち、彼と奥さんの住んでいる家を想像して


結婚生活も想像してしまった。




最悪な気分になった。



彼はそれを手に取り、店内のレジに並んだ。



私は店の中には入らずに、外で待っていた。




ばーか


ばかやろう


むかつくよ…




泣きそうだった。



溜め息しか出てこなかった。




彼は買ったそれを抱えて、店から出てきて


「お待たせ、ごめんな」と言った。



私は何も話せなくなって、彼の顔を見ることもできなくなった。




せっかくの楽しい時間を過ごせていたのに…



もうすぐこの時間が終わってしまうのに…



バカ、私、泣くな、泣くな、笑え、笑え、笑うんだよ!



そう自分に言い聞かせた。



それでも、笑えなかった。



そのまま一緒に電車に乗り、私の家の方が近かったから先に降りることになっていた。



帰りの電車では、何を話したんだっけ?


何も話せなかったんだっけ?


ただ、黙って彼にピッタリくっついていたんだっけ?




彼が買った物を見ながら


今からそれを持って家に帰って、早速「2人の」家に取り付けるの?


奥さんに「こんなの買ってきたよ」と言って、一緒に取り付けるの?


そして、そこには2人の思い出の写真なんかを飾ったりしちゃうの?


結婚式の写真とか?


あ、ハネムーンの写真とか?


2人の思い出の写真を並べて、愛を確かめ合うの?



そして



奥さんの手料理を食べて、奥さんの手作りチョコを食べるの?


「うまいよ」と言って、食べるの?




ねぇ、私のチョコは?



食べずに持ち帰った2つのチョコは、どうなるの?



もしかして、やましく思われないように、奥さんと一緒に食べるの??



「チョコもらったんだけど、食べる?」なんて言って


私が必死に選んだチョコを、一緒に味見し合うの??




嫌だ。



そんなの、絶対に嫌だ。





そんなことを考えていたら、すぐに私の降りる駅に着いてしまい、


彼と別れた。





私は彼にメールを送った。



「チョコ、奥さんと一緒に食べたりしないでほしい。

そうするくらいなら捨てちゃって。


今日は一緒にいてくれてありがとう」





少し前まで、あんなに暖かくて、気分も最高だったのに


いつの間にか冷たい風が吹いていて、私の心も冷たくさせた。



「さむ…」



私は駅から家までの帰り道、そして家に着いてから


また涙を流していた。





あんなに幸せだったのに



なんで?


なんでよ…




ほんの一瞬で、こんなに私を落とすことができるあの人が、憎かった。






その夜は、友達と食事をしてから、彼と一緒に行きたかったパーティーに行った。





彼からメールの返信は来なかった。





なんだか一気に気持ちがモヤモヤしだした。




あんなメール、送っちゃいけなかったのかな…




あーあ…なんかもう最悪だ…。。







思いもよらないバレンタインは、最後の最後に、また思いもよらない結果で終わってしまった。