バレンタイン当日の朝
彼が家に来た。
しかも行くはずだった仕事を断ってくれた。
嬉しすぎて、嬉しすぎて、胸がいっぱいだった。
なんかもう、もう本当に充分だった。
彼がこうして一緒にいてくれるだけで、充分すぎた。
今だったら、仕事に行こうが、奥さんの待つ家に帰ろうが
それでもいいとさえ、思えた。
彼が「腹減ったな」と言ったので、パスタを作った。
適当に作ったから自信がなかったけど、「うまい」と言って食べてくれた。
なんだか、ほっこりした。
奥さんは、こんな風に毎日彼にごはんを作ってあげていて
その度に「うまい」という言葉をもらっているの?
いいな、うらやましいな…
そんなことを一瞬思ったけど、奥さんのことを考えるのはやめることにした。
この日は本当に暖かくて、快晴で、とても気持ちのいい日だった。
食事を終えて、カフェオレを飲みながら、彼がこんな事を言った。
「どこかブラブラしに行こう」。
キャーーーーーーーーーーーーー!!!!!
ほんとに!? ほんとに!? ほんっとーーーーーーーーーーーーーに!?
嬉しすぎて飛び跳ねたいくらいだった。
だって、「不倫」という関係が成立するようになってから今まで
2人でどこかへお出かけしたことなんてなかったんだもん!
ん? そういえば、彼が結婚を隠している時から、昼間の休日に
どこかへお出かけしたことなんて、なかったな…。
会うといえば、夜ばっかり。
彼の職場の近くでごはんしたり、お酒を飲んだり
たまに昼間とか夕方にお茶をすることはあったけど
あとはほとんど私の家に彼が来る。
そんなのばっかりだった。
彼は土日も仕事だったりで、本当に忙しい人なのは友達だったときからわかっていたから
夜でも会えるだけでいいと思っていた。
我慢していた。
本当はね、普通の恋人同士みたいに、休日の昼間から手をつないでデート
なんていうのをしたいと思っていたよ。
でも、結婚を知ってからは、そんなことは夢のまた夢の話だと思い込ませて
絶対に口にしないようにしていた。
望んではいけないことだと、わかっていたから。
それが、土曜日という切ないはずの週末に!
しかもバレンタインという特別な日に!
まだ明るい昼間から、彼と外に出かけられるなんて!
「うんっ!!ブラブラしたいしたい~!シャワー浴びて準備するから待ってて!」
私は満面の笑顔で彼に答えた。
彼は「準備に時間かかりそうだな~」なんて言ってあきれていたけど
「だって、せっかくお出かけするんだから、ちゃんと準備したいの!待っててね!」
そう言って、シャワーを浴びようとした。
その時、いつものように、彼が私のPCをいじっていた。
ネットでニュースを読んだり、スポーツ情報をチェックしたりしていたの。
そこまでは大丈夫だったんだけど、芸能人のブログを見始めた。
もちろん、ほとんどがアメブロ。
サーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっと
血の気が引いていくのを感じた。
やばい
私のブログ、見つかっちゃうかも…
どうしよう
どうしよう
どうしよう
私はすぐにアクセスできるように、ログアウトをしていなかった。
アメブロのトップページのアイコンをクリックすれば、すぐに私の登録画面が出てしまう。
やばい、バレる
バレたら、おしまいだ
そう思って、彼に見つけられないように、しばらく見張っていた。
あまりジロジロ監視しているのも不自然だろうと思ったから
横目で見張っていた。
その限りでは、たぶん、おそらく、私のトップページは開かれていなかったと思う。
かなりヒヤヒヤで見ていたけど、私も出かける準備をしたかったから
「ねぇ、準備に時間かかるから、寝てていいよ」
なんて言ってみた。
でも彼ったら
「ん~?別に眠くないし」 なんて答える。
いつもだったらごはんを食べてから眠くなってウトウト寝ちゃうくせに~
なんで今日の今日に限って眠くならないのよ~!
ばかばかばか!
そう思って
「だって、今朝うちに来てからほとんど寝れてないでしょ?眠っておいた方がいいんじゃない?」
なんて言ってみた。
でも「んー、大丈夫」だって…。
もう、勘弁してよ~
私がシャワーを浴びているうちに私のブログを見られちゃったらどうしよう…
それだけが気がかりだった。
でも、彼はPCをやめて、雑誌を読み出した。
ホッ。。
それを確認して、私はシャワーを浴びようとした。
その時、クローゼットに隠しておいたチョコを手に取った。
今、これを渡して、ブログから意識を遠ざけさせよう
そう思って
「ハイ、これあげる」
と言って、彼に紙袋を差し出した。
彼は「ん?なに?」 と言って中を確認。
「バレンタインのチョコだよ」 と私が言うと
「あぁ、そっか、今日バレンタインか」 なーんて言うの。
えぇー?知らなかったわけじゃないよね?
バレンタインだってわかってたから、私に会いに来てくれたんじゃないの?
しらばっくれちゃってさ。
「ありがとう」と言って、彼がカードを開いて読もうとした時
私は恥ずかしくなって、「恥ずかしいからあとで読んで」と言って、そのカードを伏せた。
カードのメッセージは、私がパスタを作っている間に彼がシャワーを浴びたので、その隙に書いた。
彼は、チョコに手をつけなかった。
「食べないの?」と聞くと
「いま甘いもの食べたい気分じゃないんだ」と言った。
なんでよー
せっかく2個買ってきたのにー
ブログ見られないように、チョコに意識を向かせたつもりだったのに…
無理やり食べさせるわけにもいかなかったので、私はとりあえずシャワーを浴びた。
そして、シャワーから出てくると、まだ雑誌を読んでいた。
あ、大丈夫かな?ブログ見つかってないかな?
見られていない確信はなかったけど、大丈夫かな、と思った。
私はメイクをして、着替えて、髪をセットして、準備を終えた。
そして座っている彼の隣に寄り添った。
目の前には、チョコとカードが置かれていた。
チョコ、いま食べてくれないんだ…
どうするつもりなんだろう…
そう思って
「ねぇ、チョコ、食べないの?」と聞いた。
彼は「うん?あとで食べるよ」と答えた。
「でもさ…おうちに持って帰れるの?」と聞いてみた。
「大丈夫だよ」そう答えて、私を抱き寄せて、頭を撫でた。
そして私の体を触りながらキスをしてきた。
出かけるためにせっかく着替えてメイクもばっちりだった私は
たちまち彼に乱された。
出かけるつもりが、結局ベッドでイチャイチャするハメになってしまった。
そして彼が「このまま家でまったりしてようか?」と言ってきた。
私は「やだ、お出かけしたい!」と言った。
この日を逃したら、いつ、お出かけできるかわからなかったから。
もしかしたらもう二度とないかもしれないから。
どうしても、その日お出かけをしたかった。
そして少しまったりしてからブラブラしに出かけることになった。
家を出るときに、彼が身支度しているのを見ていた。
チョコ…どうするんだろう…
私はこんなことを聞いてしまった。
「チョコ、家に持って帰って大丈夫なの?見つかったら怒られない?」
彼は「大丈夫でしょ」 と言って、チョコをバッグの中に入れた。
そして、部屋でかけていた私のCDを2枚、借りていった。
これでまた、彼との関係は続く
そう思った。
家には、彼の物がある
そして、彼には私のCDを貸した
それだけで、まだこの恋は終わらないよね?
そう思える安心感があった。
そして彼と一緒に家を出た。