帰ってくる頃には、彼の匂いがなくなっていますように…。


そう思って、窓を開けたまま出かけた。




姉の買い物に付き合う約束をしていた。


姉がキッチン用品を買うついでに、わたしも色々見て回った。



でも、だんだん嫌な気持ちになっていった。



キッチン用品専門店や雑貨、インテリアショップを見ていると


目に入ってくるのはカップルだった。



そりゃそうだ、日曜日にカップルでにぎわうのは当然か…。



ふたりで仲良く、「ねぇ、これは~?」なんて言ってお買い物してる。



同棲でもしてるのかな…


それともこれから同棲するために買い揃えてるのかな…


あ、もしかして新婚かな…?




あいつも、こんなふうに奥さんと2人で仲良く買い物したのかな…



ふたりで相談して、大きなベッドを買ったのかな?


キッチン回りのものは、奥さんに任せたのかな?


どんな食器で、どんな料理を食べてるんだろう?


どんなインテリアにしてるんだろう…




あいつ、わたしに結婚したことを隠しながら会っていたくせに


ちゃんと奥さんといろんなこと進めてたんだろうな…


器用なヤツ…。




今頃ふたりで買い揃えたインテリアに囲まれながら

くつろいでるのかな。。



わたしと抱き合ったあの体と手で、奥さんに触れるの?




あぁ、気持ち悪い。。




なんだか無性にあの人のことがムカついてきた。



ずるい。


あいつには家が2つあるようなものだ。



広くて落ち着く、奥さんのいるマイホームと


愛人がひとり暮らしをしている、せまくて何もない、セックスをする為の家。




マイホームと愛人の家を行き来してる自分に


「あぁ、俺って罪な男」


なんて思っちゃってるのかな?






わたしは食器を手に取りながら、彼のことを考えてしまっていた。



「そうだ、今使ってるフライパンが焦げやすくなってきちゃったから

おいしいパスタを作ってあげられないな…」


「そういえば、前にゴハンを作ってあげた時、あの人はたくさん食べるから

もっと大きなお皿があったらよかったのにって思ったんだ…」


「このお皿だったら、ほかの料理を作ってあげてもちょうどいいかな?」


「今度はこのお皿で何を食べさせてあげよう…」



とか、そんなバカなことを考えてしまっていた。



あの人のために食器なんか選んじゃっていいのか?


いつ、その食器を使うっていう保障なんて、どこにもないのに…。




間違えちゃダメだ。


わたしは、奥さんじゃない。


ただの、愛人なんだ。



これは、自分の為に買う。


あの人の為なんかじゃない。



そう自分に言い聞かせて、フライパンと、新しい食器を2つ買った。




そしてその後、姉が好きなショップがあるというので、移動した。


そのショップがあるのは、あの人が住んでいる街だった。



わたしが寄り付かないようにしている、最寄り駅。



あの人と奥さんがここに住んでいる。



会っちゃったらどうしよう…



わたしはなんだか落ち着かなくて、終始ドキドキしていた。



奥さんと2人で歩いてる姿なんて、絶対に目にしたくない。


絶対に、会いませんように…!



そう思いながらその街を歩いていると、飛び込んでくる景色すべてが


あの人と奥さんが毎日見ているものなんだ…と思って


目をそらしたくなった。





あのお店に、奥さんと行ったことあるかな?


あのお店でゴハンしたりするのかな?


家のものは、どこで買ってるのかな?



そんなことを考えてしまった。


あの人と奥さんの生活を想像してしまうだけだった。



早く、ここを出たいと思った。


早く帰りたかった。




せっかく前の晩に彼に会えて嬉しかったはずなのに、


この日の買い物は、わたしを落とすだけだった。。



彼のマイホームがあるその街をあとにして、帰りの電車に乗った。




昨日の夜、彼の寝顔を見て愛おしいと感じていたのに…


彼に対する不信感と憎悪が湧き上がりつつあった。




帰宅して部屋に入ると、窓を開けて出て行ったから、風が入って寒かった。



それなのに、彼の匂いはまだ残っていて


わたしの胸をさらに苦しくさせた。。




これが現実。



彼と一緒に過ごした時間は……夢?