統一評論」に連載中
朝鮮学校のある風景-その2
3月は二か月遅れの成人式に卒業式
■涙と笑いの卒業式
前夜の強風はおさまったもののどんよりとした空に黒い雲が漂う、そんな朝だった。
九時過ぎに学校に着く。先週の成人式の参加につづき、二週連続の日曜訪問である。職員室をのぞくと、六年生の担任の成先生が手持ちぶたさに座っている。「涙なんか流さないでしょうね」と声をかけると、「大丈夫ですよ」と一言、表情は晴ればれとしていた。
一階の玄関口では「第六三回卒業式」と毛筆で書かれた看板の周りを赤い花で飾る作業が始まっていた。
女性の先生と四、五人の女子児童は手も動くが、口も休まることがない。「졸업식(卒業式)」の言葉で始まるしりとりが始まる。「식당(食堂)」「당번(当番)」「번개(稲妻)」…、それが終わると、つぎは学芸会でも披露された早く口言葉だ。
「곽박、밥곽、곽밥、밥박박…(クァクバク、パプクァク、クァクパブ、パブパクパク…)」
途中で引っかかると大笑い。その笑いがとまらない。
なにしろ、にぎやか、かしましい。

卒業式の準備も楽しそうだ
そんな光景を尻目に、男子児童はひたすら廊下を掃く。女子児童は笑いこけながら階段の手すりに紙でつくった黄、緑、青の花をつぎつぎと付けていく。
明け方まで降り続いた雨で校庭にできた水たまりをよけるようにして、学父母が次々到着する。
紙袋を抱え、吸い込まれるように廊下の奥の教育会室に入っていったオモニたちはチマチョゴリ姿で戻ってくる。
「卒業式は三階へ、成人式は二階です」、「一〇年遅れの成人式もいいわね」、「無理、無理…」、「結婚式は何階ですか」
そんな軽口が飛び交う。その後も、オモニ同士のチョゴリの褒め合いがつづく。アボジはなにもいわず、見守るだけだ。
学父母と在学生の拍手の中、卒業生が歓迎ゲートをくぐり入場する。先生と学父母、在校生と向かい合うように舞台の上に設けられた席に着く。
てっきり舞台の上には、校長や来賓が座ると思っていたのに、意外だった。とても新鮮に思えた。

写真を撮るアボジたちも真剣だ
「バスと電車を乗り換えて」で始まる「愛校歌」の合唱で式が始まるころには、どんよりとした雲は去り、真っ青な空が広がっていた。
平壌の姉妹校からの祝電の紹介につづき、学区の総連支部を代表して地元の板橋支部委員長が来賓の短いあいさつ。
各学年の担任の先生の名を挙げて、六年間の出来事を振り返り、卒業生一七名のひとりひとりの名をあげての思い出話をつづった校長の学事報告に、卒業生と学父母は、笑い、涙し、そして大きな拍手が送られた。
サッカー部の部長として、常にクラブの団結に関心をもち、困難に立ち向かったカン・ソン/口数は少ないが、人望を集めた分団委員長のキム・リャンス/いつも友だちに優しく、舞踊の主人公として金賞をもたらしたキム・ミリ/普段はおとなしいが、やるときはやると図工の授業と美術クラブで活躍した芸術家キム・チョユン/任されたことを忠実にやりとげ、思慮深くクラスメートの先頭に立った漢字博士のキム・ウスン/口演大会や舞踊クラブで活躍した芸術の達人リ・カナ/笑みを絶やさず、責任感が強く、人望が高いリ・ミョンラン/困難なことではいつも先頭に立ち弟たちの面倒見のいい、殊勝な兄的存在リ・ジョンリョン/常に努力を怠らない、マイク責任者リ・テス/学習と学校生活の模範となり、祖父、父に次いで三代目の教育会の会長になることを宣言した少年団の団委員長ムン・ヤンソン/学習を好み探究心が強く、バスケの試合では大逆転のドラマをもたらしたパク・ファンシル/バスケの試合では部長として、少年団では団副委員長として、苦労を乗り越えた模範学校の功労者ソ・ユンファ/五年生のときに転校してきて、下級生に姉と慕われたソン・リョンシル/バスケでは鋭い攻撃でシュートを決め、繊細な感性を発揮し三大懸賞募集ですべての作品を入賞させた名筆家チョ・ミラン/いつも明るく、他人を思いやる情熱家ホ・グァンイク/黙々と事をかたづけ、つねにクラスメートを正しい道に導いた努力家のホ・ユリン/クラスメートと下級生を真心で支えたアン・チャンヒィ…
金校長がのべたように、ひとりひとりが「誇るべき卒業生」である。
卒業生の名簿を読みあげる成先生の声もうわづっているようだ。
卒業証書と「優等生」、「皆勤賞」の授与の後、下級生がいない九家族の「卒業」の発表である。チョゴリを着たオモニとアボジが並んで、花束と記念品を受け取る姿に、大きな拍手がわきあがる。
「結婚式みたい」、「로처녀、로청각(歳のいった男女)のね」、「まだ卒業しなくても…」
もう一人ということなのか、前に座った学区の女性同盟の委員長二人のやりとりは息の合ったかけあい漫才のようでおもしろい。
卒業生全員による決意表明に、卒業生も涙、学父母も涙、先生も涙である。
会場の一番後ろで、ハンカチを片手に見守っていたかっての先生の目も真っ赤である。お祝いに駆け付けた、転職された一年の担任の全先生、図工担当の張先生、音楽担当の柳先生の三人だ。

式の終了を告げると、各学年の児童が声を一つにして行った卒業生を贈る感謝と励ましの言葉も感動的だった。声のウエーブである。
退場する一人一人に声をかける三人の先生、駆け寄り手を離そうとしない卒業生。こんな光景は、ウリハッキョらしくいいものだ。
校庭での記念写真の後、謝恩会とつづく。今度は先生が歓迎のアーチをくぐって入場、拍手が鳴りやまない。もちろんその中には、転職された三人の元先生の姿もあった。
「第三オモニ会」のブログには、その様子が、次のように書き込まれていた。
「先日(3/21)無事に卒業式を終えることができました。
しっとりとしてジーンとくる良い式でした。
謝恩会は東京歌踊団団長の民謡で、まるで同胞の結婚式のような楽しい会になりました。
泣いて終わるより、踊って笑って終えられて生涯忘れられない楽しい謝恩会になりました」
卒業文集に、「私たちの先生」と題し、各学年担任を紹介する詩が載っている。
四行九節からなる詩の初めの二行は「私たちの私たちの先生/私の先生」である。
その後に各学年の担任を紹介する二行の言葉がつづく。
「おもしろいが怖い/チョン・ムニ先生」
「声が美しく優しい/チョン・ギョンエ先生」
「美人で字がきれいな/チン・オンミ先生」
「かわいらしく絵が上手な/リャン・ミリョ先生」
「活発で力がある/ファン・ヘミ先生」
「ひげづらで顔が怖い/ソン・イルス先生」
「ニヒルで日に焼けた/カン・チョルミン先生」
「背が高く面白い/キム・センファ校長先生」
詩は「私たちの学校の先生/みんな好き」との言葉で結ばれている。(詩の原文は朝鮮語)
暗雲が去り青空を見せた、この日の天気のように、卒業生たちが成人し、先生を招いて催されるであろう、八年後の謝恩会のときは、時代がいい方向にかわっていることを願った。
次回、四月のメーンテーマは当然、入学式。
(二〇一〇年三月末日 ウリハッキョを記録する会 キム・イルウ)
■シリーズ・朝鮮学校の歩みⅧ「続・東京朝鮮第三初級学校物語」(体験記録編・一九四五~二〇〇九年)刊行のお知らせ
二〇〇七年刊行の「物語」の続編。草創期から現在に至るまでの児童・学父母・教職員の体験記録と児童の作文・アンケート調査の結果などを収録。
目次・内容などは
www4.ocn.ne.jp/~uil/tokyo3.htm
A五判・三九〇頁・頒価二、八六〇円
一粒出版 TEL.FAX 03-6279-3356
uil21@yahoo.co.jp
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