その1-二月は学芸会と一日体験入学④
■一日体験入学-父母も「一日教室」
二月二〇日土曜日、二日続きの晴天である。
新入生の一日体験入学があるというので午後から学校へ。
集合三〇分前、入り口にはチェーサムの卒業生だったら誰もが知っている高先生が女子児童と一緒に、受付の準備に大忙しである。
一八の名札が机に並んでいる。入学確定者は一九人だが、一人は盛岡に住んでいる。すでに入学手続きを済ませ、入学式に合わせて引っ越してくるとの話だ。

セットンをアレンジした新入生の名札
母親に連れられた新入生が続々と到着。女子在校生がいっせいに「アンニョンハシムカ」で迎える。高先生が朝鮮語と日本語で書いた新入生の名簿を示すと、新入生本人が名前を探して、丸を付ける。すると在校生のお姉さんがセットンをアレンジした名札を付けてくれて、一緒に記念写真を撮った後、制服と運動着のサイズの確認のために教室に案内していく。
てっきり在校生は新入生の姉かと思っていた。余りに親しげだったからだ。母親とも「元気だった」、「年賀状ありがとう」などと言葉を交わしている。姉妹ではないようだ。
教務主任の話によると、少年団活動の一環だという。
入学が決まると(入学対象者も含めて)、六月の運動会から新入生の担当在校生を決める。夏の夜会、秋のバザー、年が明けて学芸会に招き、担当の在校生が案内し、面倒をみることになっているというのだ。新年には年賀状も交換している。
新入生は、入学と同時に確実に一人か、二人の顔見知りの気心の知れた「姉」がいることになる。父母の不安も少しは解消されるのではないかという、学校側の配慮でもある。
校舎の玄関に飾られた、心のこもった新入生歓迎ポスターも少年団のお手製である。
朝鮮語に次のような日本語が付されている。
「きょういちにちオンニとヌナ(お姉さん)といっしょにあそびましょう」
数人の男子在校生も待機している。
金校長が母親と新入生の女の子に「新学期から練○○駅から一緒に通学する○○とんむだ」と紹介する。母親をはさんで、四人で待ち合わせ場所と時間をその場で決める。
名札を付けるなり、階段を駆け上る子、自分の名前を探せず、母親の顔を見て助けを求める子、なかには、恥ずかしいのだろう母親の手をなかなか離そうとしない気弱な男の子もいる。
少し余裕をもって早めに来るのは、電車での通学組で、時間ギリギリに自転車で乗りつけるのは近隣に住む徒歩組である。母親の服装も、前者はバックを持ちヒールを履いているが、後者の母親は隣のコンビニに行くようないでたちである。
制服のサイズ合わせを終えると、二階の教室に集合。階段の踊り場の正面に貼られた「アン・ヨンハク選手が来校!」と大きく書かれたポスターの前で、皆が一度立ち止まる。
児童と一緒に撮った写真と、朝鮮語で「低学年のトンムたちに 勉強もスポーツも一生懸命やろう 二〇一〇・一・一三」と記された色紙に眼をやる。

「アン・ヨンハク来る」のポスター
一月一三日といえば、学校の教育会の洪先生が、「練馬オンマたちの子育て」というブログに「アン・ヨンハク選手が来たぁ--------!!!」と、書いたその日である。
「一月一三日(水)、サッカー朝鮮民主主義人民共和国代表 アン・ヨンハク選手が母校第三ハッキョに訪ねてきました。
ウリナラは今年六月に開催されるサッカーWカップに実に四四年ぶりの参加を決めましたが、これに大きく貢献したのが在日同胞選手、アン・ヨンハク選手とチョン・デセ選手。
アン・ヨンハク選手は第三ハッキョ第四四期の卒業生なのです。
現在サッカーのウリナラ代表はWカップを目指して強化練習中、その合間のサプライズ訪問に生徒達は大喜び!!!
全校生と握手を交わし、サインに応じてくれたアン・ヨンハク選手は、日本でチョソンサラムとして堂々と生き、あきらめずに努力すればどんな夢も必ずかなうと熱く語ってくれました。
そして、Wカップ予選大会のとき着たユニフォームを学校にプレゼント!
有名選手になっても少しもおごらず、教職員には謙虚で、生徒達には兄のように優しくひょうきんに接してくれるアン・ヨンハク選手、ステキ過ぎます!!
Wカップではウリナラの名をとどろかせるため全力でプレーすることを誓って学校を後にしました。
次回は勝利の報告をしにまた第三ハッキョに来てくれることでしょう!
がんばれ、アン・ヨンハク!」(原文のまま)
「ウリハッキョ」とは、私たちの学校、「ウリナラ」は私たちの国、「チョソンサラム」とは朝鮮人の意味である。
新入生、とくに男の子はなかなか離れようとしない。幼い彼らにとってもアン・ヨンハクは憧れの的のようだ。
まず、学区内の朝鮮青年商工会から新入生に制服のプレゼント。板橋、豊島、練馬、北、埼玉県西部の会長が一人一人に手渡す。名前を呼ばれて大きな声で返事をして受け取る子、自分の名前を呼ばれてもきょとんとしている子、恥ずかしがってなかなか前に出られない子…様々である。
東京の青年商工会がチャリティーゴルフ大会を催して、新入生に制服をプレゼントすることは定例化したようである。
ジャニーズ系の板橋の会長は、「月刊イオ」にも紹介されたことがあって顔は知っていたが、他の会長は初対面だ。一番早く来て校長室に座っていた、井筒監督の映画「パッチギ」その後に出てきそうな、一見こわそうな会長も、子どもたちの前では、表情が和み笑顔が素敵な好青年といった感じになったのには、少し驚いた。新入生の親でもある北区の会長を残して、父母の拍手に送られて他の会長は退席する。
新入生たちは「模擬授業」のために隣の教室に移動、その場に残った親たちにも、準備する学用品から、通学時の注意、保育園や幼稚園と学校との違い、宿題の対処に至るまで、こまごまとした注意事項が伝達される。
「通学、授業、規則正しい生活、今までとは環境もかわり子どもたちも、家庭も四月の一か月は戸惑うこともあり、大変だと思います。子供たちが成長していると、温かい目で見守ってください。」
校長の語りかけるような話を真剣な眼差しで聞く学父母、この日は「父母のための一日教室」でもあったようだ。
隣の教室をのぞくと、新入生は少年団のお姉さんと並んで座っての授業である。先生が朝鮮語で書いた大きな名札を手にかざすたびに大きな声で答えていた。ここでも少年団のお姉さんたちが盛んに助け舟を出していた。
二〇〇九年度、チェーサムは「少年団活動の模範校」として表彰された。昨年の「お話会」、それを素材にした中央口演大会への参加もそうだが、この日、一日の奮闘振りを見ただけでも、その価値は充分あるようだ。
次回、三月(「統一評論」五月号掲載)は二か月遅れの成人式と卒業式について書きたいと思う。(二〇一〇年二月末日 ウリハッキョを記録する会 キム・イルウ)
■シリーズ・朝鮮学校の歩みⅧ「続・東京朝鮮第三初級学校物語」(体験記録編・一九四五~二〇〇九年)刊行のお知らせ
二〇〇七年刊行の「物語」の続編。草創期から現在に至るまでの児童・学父母・教職員の体験記録と児童の作文・アンケート調査の結果などを収録。
目次・内容などは
www4.ocn.ne.jp/~uil/tokyo3.htm
A五判・三九〇頁・頒価二、八六〇円
一粒出版 TEL.FAX 03-6279-3356
uil21@yahoo.co.jp
連載中の「統一評論」 660円
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