Jin side 33.
僕は。
今の僕が嫌いだ。
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NJ『はぁっ!?何言ってるのヒョン!ちょっと、冗談ですよね!?』
派手にこぼされたコーヒーは、僕が拭くべきだろう。
TH『ねぇ、ヒョン待って。なんでそんなことになってるの?なんでヌナはそんなに苦しんでるの?』
珍しくテヒョンが早口になる。
『うん...僕が悪いんだ。こっちに帰ってきた時にはもう、取り返しのつかないところまでヌナを苦しめてしまってた。それに気付かずにヌナのそばに居続けたことが良くなかったんだ』
ヌナの夜間せん妄、その原因、そして有効の思われる解決法。
この長い話を、みんな黙って聞いてくれていたが、そこに東条さんからの提案を付け足した途端、場を荒れさせてしまった。
JK『納得いかないっ!なんのために「過去」に行って僕たち救って、また「過去」に行ったのに戻ってきて...え?ヒョン一体今まで何してたの!?』
YG『落ち着け、ジョングク。ヒョン、本当にその記憶を消すってのが最善の方法なのか?おい、ジミン』
カウンセラーの資格を大いに役立たせているジミンに話が振られると、視線が集まった。
JM『うん...もちろん、そういう方法もあるよ。だけどね、その根本的排除っていうのは物質的要因に効果はあると思う。ヌナみたいに対象が人...ヒョンだとして...何を介して思い出すかはヌナ本人にだって分からないから』
長めの袖口を掴みながら遠慮がちに話す。
JM『ヒョンに起因する全ての記憶を消せるなら良いのかもしれないけど...って!別に東条さんの案を肯定するわけじゃないよ?』
HS『ジミナ、大丈夫だよ。お前の話すことが正しいとしても、それをヒョンの正解にすることはないんだから』
ジミンの肩を抱くホソク。
寄り添う二人を見てると、結局また僕が傷付けてしまっていると思わざるを得ない。
『東条さんの話を...ヌナの記憶を消すって話...受けようと思うんだ』
6人の視線が刺さる。
痛みは、あまり感じない。
NJ『どうしてそうなるんだよっ!なんでヌナを守らないだっ!』
落ち着いて、とナムジュンを宥(なだ)めながらも、はっきりとした口調でテヒョンが続ける。
TH『ちゃんとヌナと話し合ってね。一人で決めないで、絶対。同じ間違いを繰り返しちゃダメだよ、ヒョン』
被っていたキャップを床に投げ捨てるナムジュンを、テヒョンが外へ連れ出す。
そうか。
ナムジュンは、僕が「過去」へ行って最初に関わったんだった。
一番長く、僕の二度目の「過去」を一緒に過ごした。
二人で一緒に、みんなを救ったんだった。
だから、あんなに怒ってるんだ。
JK『ヒョン、ヌナを何度傷付けるの?僕の2回じゃ済まないよ?可哀想だよ、あんな優しい人...』
一番のマンネ、ジョングクをヌナがかわいがるのは必至だった。
日本料理を二人並んで作っている姿には、嫉妬さえ覚えた。
エプロンをソファに力無く放り、ジョングクも外へ出ていく。
YG『ヒョン』
冷静な声にも怒りの波長を感じる。
『ユンギ...僕は...』
YG『俺たちを...ヒョンを信じて頼ってる俺たちをがっかりさせないでくれよな』
書きかけのスコアはそのままに、ユンギも部屋を後にした。
ヌナに内緒で作っている曲。
初めて聴いたユンギのピアノに感動して涙したヌナのために披露したいって言ってたのに。
HS『みんな、ちょっと驚いてるだけだよ。ヒョンも本気じゃないよね、ヌナの記憶消すなんてさ?だってそれって、俺たちのことも忘れさせちゃうってことだろ?そんな寂しいこと...誰も幸せになれない希望のない「未来」、ヒョンは選ばないよね?』
研究にのめり込むせいで体がガチガチなヌナに、簡単なストレッチ運動を教えてくれたホソク。
ヌナの肩凝りと冷え性は劇的に改善した。
ジミンの頭を優しく撫でて、ホソクは4人の後を追った。
部屋には、僕とジミンだけ。
JM『ねぇ、ヒョン...さっきはああ言ったけど、まさか本当に東条さんの案に乗ったりしないよね?』
人一倍繊細で優しいジミンに、ヌナは特別言葉を選んで話しかけていた。
言語は勉強しても足りない、それが原因で彼を傷付けたくないから、って。
十分過ぎるほど、韓国語をうまく使うのに。
そういえば。
ゆっくり、そして独特の言い回しをするテヒョンとのおしゃべりをいつもヌナは楽しんでたな。
ナムジュンのそそっかしいところが自分に似てる、と。
ヌナはあいつを優しく見守っていた。
僕だけじゃない。
もうみんな。
ヌナとの大切な思い出が存在してるんだ。
僕にだって。
忘れたくない思い出が溢れるほどあるんだ。
それが、ヌナにとっても同じだってことくらい分かってる。
だけど、その思い出が今のヌナを苦しめてるんだ。
目の前にいる僕の存在自体が。
ヌナの「未来」を奪っているとしたら。
もう僕は。
ヌナから消えるしかないんだよ。