東条Side25.
俺って、こんな人間だったっけ。
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『君、俺のストーカーじゃないよね?』
ただでさえ体の重い月曜日。
気持ちの底上げを昼飯に頼ろうと思った矢先。
研究所の門扉の影に、彼がいた。
『えっ!ち、違いますっ...でも...』
瑞上の様子はいたって普通に見えたけど。
何かあったんだろうな。
なんかもう、分かりやす...
『それは...待ち伏せだよな?』
見上げた彼の瞳は、怯えた子犬のようだった。
『なに?おじさんがお悩み相談室開いてやろうか?』
『おじさんだなんて!東条さんはっ...』
十分におじさんだ。
そんなに慕われる覚えもない。
ただ。
『...ま、とりあえず話せば?君が話す相手は俺しかいないんだろうし、それを聞ける相手も俺しかいないんだろうから』
立場の違う彼と俺が。
同じ人のために、それぞれの視点から話をする。
ご苦労なこった、俺。
***
「はぁっ...」
小さく息をついたつもりが、体中すべての灰色を丸ごと吐き出したかのような溜め息が出た。
『君はいいよな?そうやって瑞上との間に起きたことを、俺にでも話して少しは楽になれるんだろ』
『そんなことはっ...』
嫌な感じになっているのは分かる。
大人気(おとなげ)ないのも分かっている。
それでも。
『あいつは...』
瑞上に対して。
まだ覚悟のついていなかった彼に、呆れてしまう。
『瑞上は、全部ひとりで抱えてたんだ。俺があいつの部屋のドアを見るまで何も知らなかった。あいつの周りにいる、俺も含めて誰も、何も気付かなかった、いや気付けなかった。それがどれだけのことか、君分かるのか?分かろうとしてるのか?』
彼の表情が、青白く強張る。
俺に対してじゃない。
ここに来るまで、彼自身、自問を繰り返していたんだろう。
あぁ、そうか。
覚悟を決められなかったわけじゃない。
決めた覚悟のベクトルが、違ったのか。
...
『この前...』
瑞上には到底話せない。
『夜間せん妄を脱するのに有効な方法についてのコラムを読んでね』
伏せる瞼に従う長いまつ毛が、その先の答えを知っているかのように移ろう。
『原因の根本的排除が、やっぱり必要みたいなんだ』
酷、か。
『東条さん...』
別の言葉だとしても。
予想していた意志は汲みとれる。
『僕から...ヌナを解放してあげなくちゃ...』
次のカードを切るのは、俺だ。