Jin side 32-1.


僕が、ヌナのためにできること。


*******


あの夜のことは、あれから記憶がない。


一出会わなければ良かった


ヌナの言葉が、声が耳にこびり付いている。

頭を巡り過ぎて、どうにかなりそうだ。


僕という存在がどれだけヌナを苦しめているのか。

ヌナは僕を必要だと。

愛していると言ってくれるけど。


愛と闇は表裏一体。

紙一重なんだ。


***


『君、俺のストーカーじゃないよね?』


『えっ!ち、違いますっ...でも...』


待ち伏せしてたわけじゃないけど。

なんとなく、この辺りにいれば会えるんじゃないか、とは思って。


『それは...待ち伏せだよな?』


苦笑いの東条さんが、すごく大人に見えた。


『なに?おじさんがお悩み相談室開いてやろうか?』


『おじさんだなんて!東条さんはっ...』


勝手にだけど。

僕にはいない、ヒョンのような存在だと甘えてしまっている。


それなのに。

ヌナとの関係を疑ってヤキモチ妬いて、ヌナにそれ言っちゃって...


僕は身勝手だ。

本当に...



『...ま、とりあえず話せば?君が話す相手は俺しかいないんだろうし、それを聞ける相手も俺しかいないんだろうから』


***


「はぁっ...」


東条さんの、ため息とは思えない大きな声に、情けなくも肩を震わせてしまった。


『君はいいよな?そうやって瑞上との間に起きたことを、俺にでも話して少しは楽になれるんだろ』


『そんなことはっ...』


それまでの雰囲気とは違う、重たい空気が僕を包む。

東条さんから発せられている「圧」だ。

東条さんが、ヌナに対しての感情が表へ出る時。

こんな感じになる気がしている。


『あいつは...』


自分の感情を押さえつけるような低い声で、東条さんが続ける。


『瑞上は、全部ひとりで抱えてたんだ。俺があいつの部屋のドアを見るまで何も知らなかった。あいつの周りにいる、俺も含めて誰も、何も気付かなかった、いや気付けなかった。それがどれだけのことか、君分かるのか?分かろうとしてるのか?』


ヌナが一人で抱え続けている闇。

その闇は、僕への愛から生まれた。


あの時に僕が示せなかったヌナへの気持ちを、今更どんな方法を使って羅列的に見せたとして。

それは僕の自己満足にしか過ぎない。


一愛とは誰のためのものなのか


そんな話を、ナムジュンやジョングクとしたことがあったな。


認めたくないけど。

僕は自分のためにヌナを愛してしまっている。

僕が空けた時間を埋めるのに、必死だ。

目の前で苦しむヌナの心の闇をなんとか明かそうと、もがいてはいるけど。

結局、その役割が僕じゃダメなんじゃないか。


ヌナを諦めたくない。

「過去」から戻ったあの日から、その思いだけで前を見てきた。

でも、その先の「未来」に。

笑ってるヌナがいてくれるか、自信がない。


それでも、僕がヌナを愛しているのには変わりない。

僕が持つすべての愛をヌナのために捧げたい。

ヌナに幸せになってほしい。

できるなら、僕がこの手で幸せに...!


つづく→