Jin side 31-2.


→つづき


…….


あ...

やっぱり寝ちゃってるか...


気配を消して洗面所へ向かい、手を洗って口をゆすぐ。


くんくん...

うーん...自分じゃ分からないけど何か変なにおいがついてる気がする。

さっさとシャワーを浴びてしまおう。



ん...?

何か音したかな。

ヌナ起きちゃったのかな。


ドア枠から顔を出す。

閉じられた寝室のドアの隙間から光は漏れていない。


『気のせいか...』



コンコン



その音に。

体内全ての血が引いた。



...え...



コンコン



...なに...


...

...


くぐもってはっきり聞こえないけど。

きっとヌナがっ...


ドアに手をかけようとした瞬間。


「ジンッ!出てきてっ...ねぇ!ジンッ!」


手が止まる。


なんだ...?

ヌナ、怒ってる?

今までの夜間せん妄と、ちょっと違う...


すすり泣きながら、か細い声で僕の名前を呼ぶヌナしか見たことがなかったから。

こんなふうに僕に怒っているヌナと対峙するのが怖かった。


「ジンッ...ひどいよっ...私は置いてけぼりで...もうずっとずっとひとりなのにっ...」


どうしたら。

どうしたら、いい?


答えはひとつだろ。

今すぐドアを開けて、ヌナを落ち着かせてあげなきゃ。


分かってる。

でも。

手が震えてる。

ドアに手をかけられない。



「ジンッ!「彼女」って誰なの?私はもういらないのっ?ねぇっ!」


ノックも、怒号も止まない。


力を込めて拳を握る。

躊躇してる時間はないんだ。

ヌナを助けなきゃ...!


『ヌナッ!!』


ドアを開けた先には、涙を流しながらも眉を吊り上げ、怒りの感情に支配されたヌナが立っていた。


激しくノックを続けていた指の関節は、既に赤くなっていた。


『ヌナ、ごめんっ!ごめんっ...』


目の前のヌナを抱きしめることしかできない。

僕が無力なのは分かってる。

それでも、今は抱きしめさせて欲しかった。

僕の弱さを隠したかった。




しばらくすると、荒んだ息を落ち着かせたヌナの怒りの熱が、すぅっと冷めていくのが分かった。


『ヌナ...』


頬を流れた涙の跡をそっと指でなぞる。

こんな時ですら。

ふわっとした、柔らかな肌に心が動いてしまう。


「...った...」


『ん...なに?ヌナ、なんて言ったの?』



「出会わなければ良かった...」