52.


そばに、いて。


*******


「ジンッ!」


相変わらず、目覚めは冷や汗を伴うけれど。


前より、安心できる。


すぐそばで。

すぐ横で。

ジンが私を見つめてるから。


『おはよ、ヌナ』


優しい挨拶の後に、遠慮がちなあくびをする。


『...もしかして、眠れてない?』


『ううん、ちょっと前に目が覚めて、眠ってるヌナを見つめてた』


そこに佇むのは、まさしく麗しき王子様だ。


『見ないで...シミとシワとか。その他にも色々気になるんだから』


『シミもシワもないよ?まぁヨダレはたまに...』


「こら!」


『冗談だって!』


ひとしきり笑いあうと、ジンの瞳がとろっとうつろぐ。


『少し眠って。今日休みだし、まだ時間あるよね』


『うん...ヌナ、手を繋いで?』


ジンの優しい手に、そっと自分の手を重ねる。


文字通り間もなく、ジンが深い眠りに入ったのが分かる。



傷は増えていない。

跡も薄くなりつつある。


どれだけ時間がかかるかはまだ分からないけど。

元通りになる兆しが見えてきた。


あの夜。

“仲直り”した夜から、二週間。


ジンは毎夜、私の部屋へ来てくれる。

夕飯を作って、食べて。

お互い、区切りのいいところまで仕事を片付けて。


一緒に眠る。


私が今、こんなに穏やかな気持ちでいられるのは。

ジンがそばにいてくれるから。


このままそばにいたい。

そばにいてほしい。


お願いしてみても、いいかな?



そばに、いて。



これって。

わがままじゃないよね?