52.
そばに、いて。
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「ジンッ!」
相変わらず、目覚めは冷や汗を伴うけれど。
前より、安心できる。
すぐそばで。
すぐ横で。
ジンが私を見つめてるから。
『おはよ、ヌナ』
優しい挨拶の後に、遠慮がちなあくびをする。
『...もしかして、眠れてない?』
『ううん、ちょっと前に目が覚めて、眠ってるヌナを見つめてた』
そこに佇むのは、まさしく麗しき王子様だ。
『見ないで...シミとシワとか。その他にも色々気になるんだから』
『シミもシワもないよ?まぁヨダレはたまに...』
「こら!」
『冗談だって!』
ひとしきり笑いあうと、ジンの瞳がとろっとうつろぐ。
『少し眠って。今日休みだし、まだ時間あるよね』
『うん...ヌナ、手を繋いで?』
ジンの優しい手に、そっと自分の手を重ねる。
文字通り間もなく、ジンが深い眠りに入ったのが分かる。
傷は増えていない。
跡も薄くなりつつある。
どれだけ時間がかかるかはまだ分からないけど。
元通りになる兆しが見えてきた。
あの夜。
“仲直り”した夜から、二週間。
ジンは毎夜、私の部屋へ来てくれる。
夕飯を作って、食べて。
お互い、区切りのいいところまで仕事を片付けて。
一緒に眠る。
私が今、こんなに穏やかな気持ちでいられるのは。
ジンがそばにいてくれるから。
このままそばにいたい。
そばにいてほしい。
お願いしてみても、いいかな?
そばに、いて。
これって。
わがままじゃないよね?