僕のわがまま。
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JM『えぇ〜?随分と浮かない顔してるね、ヒョン』
ナムジュンの仕事の様子を、二階の部屋からぼーっと眺めていると、ジミンが話しかけてきた。
『なぁジミナ。変なこと聞いていい?』
JM『なんでも聞いてよ。僕でよければ』
ジミンの柔らかい表情に、つい話してしまいたくなった。
『いつ、ヌナを抱きしめてもよくなるんだろう?』
JM『はぁっ!?』
しまった。
つい、が過ぎた。
『いやっ...なんっていうか...ヌナとの距離が計れないんだ。一応、多分、きっと、許してもらえた...いや、違うな...許してもらえるスタートラインに立てた、くらいだって自覚はしてるんだ。焦っちゃダメだし、ヌナの気持ちが最優先、なんだけど』
JM『物理的な距離を詰めたい、みたいな?』
『うん。でも出来ない』
JM『なんで?』
ジミンの目線が妙に絡みつく。
『前より、その、僕が意識転送する前よりもヌナ、明らかに僕を避けてる』
JM『目が合わない、とか?』
ジミンのかわいい人差し指が、僕の目の前で揺れる。
『そうだな、あまり目も合わない』
JM『ふーん?』
『僕なんかが触れたら、怒ってどこかへ行っちゃうんじゃないかな。僕のこと、もう好きじゃないのかな』
JM『ヒョン、ヌナとデートしてないの?』
なっ...!
『デートなんて!どうやって誘ったらいいか...帰りが夜遅くなる時は研究所へ迎えに行ってアパートまで送ったりはしてるけどっ...』
JM『それだけ?』
頬杖を付いていたジミンが、ピョンと顔を上げた。
『ヌナ、研究所の仕事をすごく頑張ってて。平日は遅くまで残ってるし、休み返上してまで一生懸命なんだ。体調は心配だけど、ヌナのやりたいことだから、それはそれで応援してるんだけど』
JM『食事、差し入れたりは?』
『一度持って行ったら...悪いから、って断られたんだ...』
JM『一回くらいで...』
見なくても分かる。
今、ジミンはものすごく呆れた表情をしているだろう。
JM『自分勝手な理由でヌナと別れて、やっとの思いでヌナと再会をして。もう一ヶ月経ちましたよ?』
ジミナの視線が、鋭く僕を刺す。
JM『ヌナから行動起こせるわけないよ。あの日、ヒョンと会えて嬉しいのは側から見てる僕らでも分かった。でも、まだ迷ったり怖かったりするんじゃないかな?ヒョンに近付いた瞬間、また離れてしまうんじゃないか、ってヌナの方が切実に悩んでるんじゃない?』
『そんな!僕はもう二度と絶対にヌナのそばから離れないよ!』
JM『と言っても、前科あるわけじゃない?ヒョンはさ』
...もう、それを言われるとどうにもできないんだ。
JM『ヒョン。ヌナの心を凍らせたのは紛れもなくヒョンだ。だけど、今度その心を解かすのもヒョンだよ。時間はかかるかもしれないし、簡単にはいかないかもしれない。もっと、ヌナに寄り添ってあげなよ』
『ジミナ...』
JM『はい、というわけで今週末、デートに誘いなよ。昼間の明るい時間、ヒョンの過去を連想させない場所にね』
『えぇっ!?』
そんな...
僕が誘ったりしても、いいのかな。
JM『あまり長い時間はダメだよ?
ヒョンだってヌナだって、2人で過ごすことにはリハビリが必要なんだから』
そうだな、リハビリ...か。
ジミナ。
お前に話を聞いてもらえる人は、きっと心が救われるだろうな。
JM『あ、勢いに任せて近付き過ぎちゃダメだよ。心も体も。分かったね?』
念押しのつもりだろう。
ジミンが僕の肩を小突いた。
心外だ。
僕は盛りのついた猫じゃないぞ。
震える指で画面の上を行ったり来たりしながら、ヌナにメッセージを送れたのは、ジミン先生のカウンセリングを受けた一時間後だった。
そして。
ヌナからの返事に飛び上がったのは、更にその二時間後だった。