《 》→英語会話文です
【 】→メッセージアプリ会話文です
東条side 20.
そばにいたくて、仕方なくて。
*******
釜山でのシンポジウムは大成功だった。
《ありがとう、東条さん。久しぶりの韓国で私も緊張していたけど、こんな有意義な時間を過ごせて幸せです》
エヴァンズ教授から握手を求められ、慌てて手を差し出す。
瑞上に、シンポジウムの様子を伝えてやろうとスマホを握っていたからだ。
《いや、こちらこそ。こちらの学生も活気があって、いい刺激を受けました》
《...瑞上さんは諸用で欠席と伺っていましたが、体調などは本当に大丈夫なんですか?》
エヴァンズ教授は、瑞上を気に入っている。
特に、同じ女性としてこの分野に携わる瑞上に、目をかけていた。
《大丈夫ですよ。日頃の研究の疲れが出たようで》
《だったら、それはあなたの責任よ!マネジメントが行き届いてないから、彼女が今日ここへ来れなかったということじゃない!》
やっば。
ちょっと表現間違えたか...
《エヴァンス教授!先程の講演、素晴らしかったです!》
《...あぁ、あなたはカン•ジュアさんね!論文拝見しました。とてもおもしろい観点の持ち主ね》
カンさんの目配せに救われた。
良かった...
二人が盛り上がっているのを背に、大きな柱へと隠れた。
会場から引き揚げて、次は親睦会だ。
その前に瑞上に連絡したかった。
「あんまり長ったらしいのは苦手だからな」
数枚の写真と、無事成功した、エヴァンズ教授が会いたがっていた、とだけ打ち込み、送信した。
すると、すぐに既読となり、メッセージが届いた。
【あー!羨ましい!エヴァンズ教授、やっぱり素敵です。報告書と質疑応答集が待ちきれない!】
嬉しそうな笑顔と弾んだ声が文字から伝わってくるようだ。
主催者側として多少、緊張していた心が解けていくのが分かる。
「やっぱり無理してでもお前を連れてくれば良かったよ」
いくつか撮影した動画もそのまま送ろうかと思ったが、指を止めた。
明日は日曜だ。
朝一の列車で帰って、一緒に見ればいい。
【明日、駅前のカフェに来れるか。今日の様子、報告書より一足先に俺のスマホから動画で見るといい】
すぐ既読にはなったが、心なしか返信に時間を要した気がした。
【先輩、お疲れじゃないですか?】
なんだ。
遠慮してんのか。
【疲れてない。シンポジウムの熱気と興奮で若返ったね。お前にもこのエネルギー分けてやりたいんだよ。用事ないなら12時に集合な】
ちょっと...
強引すぎたか...
返信を待つ間、スマホを持つ手に力が入る。
【先輩、私に自慢したいんですね〜今日のシンポジウム!時間場所、了解です】
分かりました、と頷くアルパカのスタンプと共に送られた返信に、ガッツポーズをする俺は浮かれたやつだった。
そう。
この時までは。