東条side17-1.


俺と、あいつの距離。


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彼が「現在」へ戻ってきて、一週間。

心身ともに問題もなく、覚醒してからの生活試験もクリア。

明日には研究所の監督下から外れる。


彼は、自由の身になる。


そう。

研究所のその先、何をしようが、誰と会おうが構わない。


だけど、ひとつだけ。

俺は誰の許可も得ていない条件を、秘密裏に彼へ突き付けた。


『ヌナとは...会ってはいけ...ない...』


『瑞上に会うために予定より早く覚醒したってのに、な。でも君が気落ちするのは、正直勝手も甚だしい話だろ。君のせいで瑞上の人生は大きく狂わされた。瑞上はまだ、その渦中なんだよ』


青く線を引く白い顔は、まさに彫刻像のようだ。


...どんな様相もサマになっちまう。


『別に一生会うな、とは言わない。でも、瑞上が君と会っても取り乱さず平静でいられるようになる日までは、絶対に姿を見せないでほしい』


そんな日、永遠に来なくたっていい。

むしろ、来ないように仕向けたっていいんだ。


俺は、ずるい。

瑞上に事実を伏せたまま、彼に身を引かせようとしている。


瑞上のことだって、はっきりとは言わない。

俺にそんな権利はないし、彼に敵うわけもないと分かっているから。


『頭の良い君なら分かるよな?君が自分を貫いた分、瑞上は傷付いたんだ』


だから、彼に想像させる。

瑞上が今、どういう状態か。

細かい情報を与えず、抽象的な言葉を並べて印象操作する。


頭の回転が速く、人の心の動きに敏感な彼なら、すぐに...


『分かり...ました...』


うん、そうだろ。


『でもっ...』


...え?


『いつか必ずっ...ヌナには会いたいと思っています...僕がしたことで傷付けてしまったことをちゃんと謝りたい。ちゃんと償いたい...僕は...ヌナがっ...』


バンッッ


手に持っていたバインダーをデスクに思い切り叩き付けた。


それだけで済んで、何よりだ。


『とにかく、今は到底無理だ。明日の昼12時に監護室を出られるから。前に住んでた部屋はそのままなのか?そうじゃないなら行くアテ、今から当たっておくといい』


意識転送当日に預かった彼のスマホと充電器をデスクに置き、彼の顔を見ずに監護室を出る。


『東条さっ...』


かけられた声を遮り、部屋の扉を閉める。


話したくない。

声を聞きたくない。

姿を見たくない。


彼のひとつひとつが、今すぐにでも、あいつを簡単にさらって行く気がして。

居ても立ってもいられないんだよ。


つづく→