JIN side 20-2.
→つづき
ひとつ咳払いをして様子を窺う所長さんに視線を合わせる。
『ヌナが...生きてるって...本当良かった...です』
引き攣りながら話す僕は、本当に小さな子どもみたいだ。
『うん、生きてるよ。見る限り以前と変わらず頑張ってくれてる。ただね、なぜあいつが...東条管理士が君にあんなふうに感情をぶつけるのかを考えてみてほしいんだ』
東条さんの気持ち...
『あいつはね、ずーっと瑞上さんを見守ってきた。彼女が大学院生の頃からだから、もう何年になるだろうね。ははっ...見てるこっちがヤキモキするくらい大切に見守るだけ、だったんだ』
なんとなく、気付いてた。
でも、それを絶対ヌナには言いたくなかった。
気付きから確信に変わるのが怖かった。
だって、僕が東条さんに敵うわけないって思ってたから。
過ごした時間も、信頼の深さも...
『君が過去に囚われて、苦しむ瑞上さんのことをあいつはこの先、一生かけて支えようとしてる』
...一生...
『もちろん瑞上さんは生きてる、ちゃんと生きてるよ。だけどね、君とのことをどうやって整理をつけたのか、その上で毎日何を思って過ごしているのか。君は考えられるか?少しでも想像がつくか?』
僕は、あまりに...
あまりにも甘かったってことだ。
『覚醒して、まだやっと数時間だ。君だって混乱してる。でもね、覚えておいてほしい』
髭をひと撫でし、体を僕に向き直す。
『君は君の意志で過去を生き直した。その数ヶ月間、君以外の周りの人間は「現在」を生きている。あの日から時間が止まっているわけじゃない。君の生き直した数年と、意識転送した数ヶ月。長さが違うと思うかもしれないが、人が生きるのに、時間としての価値は大して変わらないんだ』
僕が「過去」へ意識転送し、覚醒するまでの間、僕は「現在」の数ヶ月を失ったことになる。
『「過去」を生きる君は「現在」より成長することはない。代わりに「現在」を生き続ける人間はその数ヶ月で成長していく。分かるかな...この数ヶ月を君は早急に取り戻す必要がある。周りの人間の成長に追い付かなきゃいけない。変化を受け入れなきゃいけない。それが意識転送の代償なんだ』
僕だけが...まだあの新月の夜のままだってことだ。
『あぁ...すまない、混乱させるね。すまない...でもね、あいつの気持ちも汲んでやってほしい。あぁ...瑞上さんに会うのは今でなくともいいと思うんだ。彼女の気持ちだって、この数ヶ月でどう変化したのか、今の君では分からないだろう?』
本当だ。
僕は、どうしてヌナがあの時のままだって思ったんだろう。
あんなに傷付けて。
あんなに困らせて。
僕は本当にバカだ。
信じられないくらい、自分のことしか考えてないじゃないか。
そんなバカな自分を認めながらも。
ヌナに...会いたい...