東条side 16-1.


おもしろくない。

なにひとつ、おもしろくねぇ。


*******


『死んだんじゃねぇのかよ、その「彼女」っ!!』


『もうやめろ、いい加減にしろっ!』


彼をベッドへ突き放した。

そんなに力は入れていない。

覚醒したばかりの人間はフラフラだし、痩せているから物理的に軽い。



『あっ...あっ...ヌナッ...うっ...



お前が泣いて何になる?

何か変わるのか?

瑞上の運命が、過去が、未来が。


お前が救いたかったのは、一体誰なんだよ?


彼がこうなると分かって、敢えて言葉にした。

わざとだ。

たとえ、これが原因で彼の心が壊れたって構わない。


瑞上は、コイツに壊されたんだから。



監護室を出て一瞬、我に帰った。

少し声が大きかったか。

外に漏れてないといいけど...

今更か。


廊下の後ろからヒョンが追いかけてきた。


『ちょっと待て、待てって!』


掴まれた肩と逆へ顔を背ける。


『あんな言い方したら彼、勘違いするだろう?』


『勘違い?何を?』


ヒョンは分かってないんだな。


『何を、って...だって瑞上さんは』


『あいつは死んだよ』


ヒョンの顔が強張る。

今の俺は、そんなに怖いかな。


『一度死んだんだ。あいつは自分で自分の心を殺した。過去を忘れるために、心を殺して今を生きてる』


瑞上の心が、どれほど傷むのかは想像の域を越えない。

事故で負った体の傷だってそんな簡単にきれいさっぱり治るもんじゃない。


親に嘘までついて。

俺に受け止めさせてもくれやしない。


『瑞上がどんな思いで毎日生きてるか。それをアイツ分かってねぇだろ?のこのこ帰ってきやがって

しかも、あんな...


あんなに生気溢れる表情で。

初めて会った時の真っ直ぐな瞳に戻っていたなんて、癪だ。


今の彼に再会したら、瑞上はどうなる?


混乱するだろう?

困惑するだろう?


感情の波にもみくちゃにされて。

それこそ、どう自分を保っていいか分からなくなるはずだ。


それに。

俺がずっとそばにいたかったから。

これからずっとそばにいられると思ったから。

焦らず、少しずつ近付ければ...


ってこれは俺の下心だっ...


つづく→