JIN Side 18-2.


つづき


ぬっと目の前に現れたのは、口髭を生やした男の人だった。

ぱくぱくと、口を動かしているがハッキリと聞こえない。


年齢は、父親くらい。


父さん...

もう何年も会ってないな。

会いたくもないけど...


ぼんやり考えている間も、その人は話し続けていたようで、ようやく何を話しているか聞こえてきた。


正確に言えば、ずっと聞こえてはいたが、話の内容を理解するまでに時間がかかっていた。


『キム・ソクジンさん、覚醒したんだね...予定よりかなり早いから驚いたよ。...うん...体の調子は悪くなさそうだ』


僕の周りの機械をあれこれ見回して、少し焦った様子で話している。


...

この人は...


『とりあえず、色々話したいことはあるだろうけど、まだ覚醒してすぐだから難しいと思う。とにかく直接水分を摂るんだ』


口角から細いチューブを差し込まれ戸惑った。

が、文字通りそれは一瞬で、僕は与えられる水分全てを体内へ取り込むべく必死にチューブを咥えた。


『徐々に腹の虫も鳴り始めるだろうけど、まだ固形物は無理だから点滴と回復食の併用だな』


手元のモバイルパッドを見たり、何かを書いたり、長く垂れ流された紙を拾い上げてなぞったり。


なんだか、落ち着く。

この人、知ってる人かもしれない。


『顔色、戻ってきたな。良かった良かった。若いっていうのはやっぱり強いね』


僕の肩に優しくポンと触れた、次の瞬間、少し力がこもった。


『さて...アイツにはどうやって話したもんか...さすがに今はダメかなぁ...


口髭を撫でる仕草で思い出した。


研究所の所長さんだっ...


そうか、僕...


目が合った所長さんが、顔を覗き込んできた。


『どうした?何か言いたいことがあるのか?話せるのか?』


そう言って、僕の口元に、そっと耳を傾けてくれた。


...もどっ......きた......です......


ヌナに出会った、あの春の日の土手から。

僕は「現在」へ戻ってきた。