JIN side 11.
彼女を助けられるのは僕しかいないから。
『...それでね、私は本当はママと行きたかったんだけど、経済力がどうこう言われちゃったら、もうパパについて行くしかなくて』
彼女の両親は離婚している。
実母は世界中を旅する文化人で、自分の仕事に没頭するあまり実父に離婚を迫られたそうだ。
子育ても疎かになったのは必然で、彼女は反抗心から実母と距離を置いていた時期も長くあったそうだが、心では尊敬していると話す。
一昨年、実父は再婚した。
いわゆる継母による家庭内暴力、モラハラが原因で家を空けることが多くなった彼女に、実父は話も聞こうとせず冷たく接するようになったという。
『パパは...あの人のことしか考えてないの。ううん、考えられないようにされてるんだと思う。確かにママはひどかったよ、何日も何週間も家を空けて。だけど帰ってきた時にそれを全部無かったことにしてくれるくらい抱きしめてくれたの』
少女のような幼なげな話し方は実母へ求める愛の大きさを表しているように思える。
彼女は生活をするために父を選んだけど、心では母に愛を求めているんだ。
現状、学生の身である彼女には家を出ることも自立することも難しく、継母の光る目の袂で実母を探すようなまねはできない。
彼女の人格に加え、実母についてもどす黒い感情をぶつけてくる継母に疲弊し、塞ぎ込んでいったと言う。
ーーー私のことも救ってほしい
僕と出会い、テヒョンとソアを救い出したことで生きる希望が見えたと、キラキラした瞳で言ってくれた。
彼女の言葉に胸が高鳴ったあの日は僕の宝物になった。
『ジンに出会えて良かった。あの時、あの踏切で私が手帳落とさなかったら今日はないってことだもんね』
猫のように擦り寄り、僕の肩に頭をもたげる彼女が何よりも愛おしい。
そう感じていたはずなのに。
『ねぇジン、本当に私の話聞いてる?最近ずっと上の空だよ?』
彼女の言う、「最近」っていつからのことを指すのだろう。
タイムリープから意識転送して...今日で何日目かな。
別に数える必要なんてない。
どうせ、あの日の「現在」でなんて、生きている意味はなかったんだから。
やっと思い描いていた「過去」を手に入れたんだから。
ゆっくり楽しめばいいだけなんだ。
それなのに。
「その日」へのカウントダウンが始まっているような感覚に襲われる。
一体、それはいつ?
どの日?
何のために「その日」に向かって生きていくの?
知らない誰かからの問いかけに目眩を感じる。
手元に無い答えを探しに行けるほど、今の僕の心に余裕がないのはなぜなんだ?
『ごめん...ちょっと疲れてるみたい』
かろうじて絞り出した言い訳に彼女は納得してくれただろうか。
『とりあえず!ジンはママの名前から活動履歴を調べてね。通名を使ってる場合もあるだろうから。私はママの友達をあたってみる』
連絡先も行方も知らない実母を探すことは簡単じゃない。
それでも僕が彼女を助けてあげなきゃ。
みんなを助けられたんだ。
過去で事故に遭った彼女だって、目の前でこんなに元気にしている。
今回のことだって絶対うまくいくはず。
『母親と継母で共通の友達がいないか確認した方がいい。僕たちが色々と嗅ぎ回っていることを継母が知ったら今度こそ閉じ込められてしまうよ』
彼女を今の家から連れ出し、実母の元へ連れて行く。
それが僕の考える、彼女の救済プランだ。
『そうだね。さすがジン、頼りになる!』
背伸びをしてキスをくれる彼女を抱きしめたり、お返しにキスしたり。
それが自然に出来ないのは、頭の中の「誰か」のせいなのかな。