JIN side⑨-1. Abyss
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僕は僕へと、僕を沈みゆかせる。
僕の中のヌナが薄れていく。
ヌナを忘れたくない。
ヌナのそばにいきたい。
ヌナの元へ帰りたい。
そう思えば思うほど。
ヌナとの日々が夢だったのではないか。
あの温かさは幻だったのではないか。
ヌナを知ってしまったことを後悔したくないのに。
僕はずるいんだ。
ねぇヌナ。
僕はヌナを愛してる。
それなのに。
ヌナを愛する自分を、愛するのが怖かったんだ。
...ヌナ...
...ヌナ...
...「ヌナ」...?
*******
13回目のタイムリープで彼女を事故から救ったのに、どうして「現在」にいないんだ?
まさか、僕がみんなを救ったことで彼女が代償を払ってるなんてこと...!
『東条...さん...』
『君...一体どうしたんだよ...』
街で彼女を探しているところを警官に保護され、警察署まで連れて来られてしまった。
彼女を探しているだけだ、と何度説明しても取り合ってくれない。
彼女の名前も、年齢も、住所だって伝えたのに探そうともしてくれない。
僕の頭がおかしいって思われてるのか?
みんなに連絡しようと思ったけどスマホを持たずに外へ出てしまったみたい。
僕の身元をきちんと証明してくれるのは東条さんだけだ。
『瑞上さんに、このことは...』
『......?』
東条さん...誰のこと言ってるんだろ。
日本人の名前か...?
『君...』
東条さんの表情が分からない。
その人が僕と彼女の過去に関係してるのかな。
東条さんが研究所の一室を僕に当てがってくれた。
『とりあえず、体調が良くなるまでここでゆっくり休むといい。誰も君を訪ねて来ないようにするし、君も何も考えなくていい。欲しいものがあれば俺に言うんだ。分かったか?』
優しいな、東条さん。
僕、頼ってしまってばかりで...
『瑞上さんにも言わない方がいいんだよな?』
『......』
何度も聞かれるけど。
誰なのかな...
つづく→