JIN side⑧-1.


ヌナ。

僕は何を見失ったんだろうか。




『ねぇジン。聞いてるの?』


「彼女」に手を握られ、ハッとした。

最近、こういうことがよくあるんだ。

今は「どっち」だったっけ、って。




「彼女」と初めて出会ったのは8回目のタイムリープの時だ。

踏切の向こう側に立つ、同い年くらいの女の子。


はじめは、ヌナと同じくらいの髪の長さだな、と思っただけだった。


ホソクとジミンを救い出すことに難航していた時、例のごとく失敗するとある地点に戻ってしまっていた。


それがなぜか、「彼女」と出会う、あの踏切だった。


2回目の踏切の場面。

「彼女」が落とした手帳を拾って渡した時の笑顔に少し、惹かれた。






一度のタイムリープで過ごせる時間は、「現在」で言うと48時間。

その48時間という箱の中で、僕は「過去」の同じ場面に何度か遭遇していた。


仲間を救うことに失敗すると、目の前がガラスのように粉々に砕け散り、真っ暗な世界に放り出される。

次に目を開けると、タイムリープ中のどこかの地点に戻っている。





ナムジュンに会って、状況を変えられたのは本当に奇跡だった。

ビギナーズラック、といった感じで、今思えば全てがうまくいった。


次のタイムリープではジョングクを救うことになったが、打って変わって何も前に進まなかった。

投げ出したくなるほどの無力感に襲われた。


2回目のタイムリープ中、「過去」で確実に48時間以上経っているのに覚醒していないことに気付いた。


あぁ、時間は前方向に流れるだけじゃないんだ、「過去」に無理矢理戻ったせいで時空が歪んでいるんだ、と半ば強引に納得した。


そして僕はタイムリープの中で、「過去」を繰り返すことを好都合であると捉えた。


早い段階でヌナに相談すべきだったかも知れない。

でも、どうしてだか...

ヌナには言えなかった。

本当のことを言ったら、もうタイムリープできなくなるんじゃないかって。


一度のタイムリープで、幾重にも「過去」を塗り重ねることに後ろめたさを感じていたのだと思う。


だからレポートも、だんだん正直に書けなくなってしまったんだ。


今は...確か10回目のタイムリープだったはず。

もう何度目の「今日」だったかな。


『大丈夫、聞いてるよ。そのタイミングで僕がテヒョンを連れて行けば作戦成功だね』


僕はなんで笑っているんだろう。


「彼女」と踏切で出会うために、ジョングクを事故に遭わせたのに。



つづく