東条side14-1.
君の光を守るための、嘘。
事故後、2回目の朝を迎えようとしていた夜明け。
瑞上が目を覚ました。
病室内には両親のやるせない溜め息が充満しきっていたが、ようやく新しい風が吹き込んだ気がした。
長かった...
長い2日間だった。
でも、とにかく...
本当に良かった。
担当医と看護師を呼び出した後、俺は病室の隅に置かれた椅子に小さく座った。
「本っ当に心配かけて...この子はっ...」
担当医の診察を受け、呼吸器を外された瑞上に、母親が抱きつく。
「...ねぇ...ここどこ?...なんでお母さんがいるの...私...」
まだ目を覚まして数十分だ。
スメラルドの影響がなくても、事故当時の記憶が飛んでいるのかもしれない。
「交通事故に遭ったの!救急車で運ばれて手術して丸2日眠ったままだったのよぉ...」
母親は安堵からか、瑞上のベッドに突っ伏して泣き出してしまった。
「え...お父さんまでいる...」
「いちゃ悪いのか」
ははは、と笑いながら一筋涙を流すと、父親は俺に向き直り、
「東条さん、本当にご心配をおかけしました。ありがとうございました」
と、深く頭を下げられた。
「いえ、そんな。ご両親から離れた場所でお嬢さんを預かる立場として、今回事故に遭われたこと、研究所を代表してお詫びします。本当に申し訳ございませんでした」
父親より深く頭を下げ、顔を上げるタイミングを見計らっていると、聞き慣れた愛嬌のある笑い声が聞こえてきた。
「どうして先輩まで?何を謝ってるですか?」
クスクス笑い続ける瑞上を、今すぐこの手で抱きしめてやりたい。
よくぞ、目を覚ましてくれた。
本当、良かったよ。
「上司として当然のことしてるだけだよ」
照れ隠しの悪態は、両親の前では隠すべきだったな...
*******
瑞上は術後の復帰食も平らげ、その日の夜にはベッドに手伝ってもらいながらも、少し体を起こすことができた。
「すみません、休みの日だったのに先輩や所長にまでご迷惑をおかけしてしまって」
事故に遭ってから目覚めるまでのことを母親から説明されて、少しずつ現実味を帯びて来たようだ。
「それは構わない。直属の上司だし、お前のご両親と面識あるの、こっちで俺だけだし」
いや。
この前、母親が帰国する時、彼氏くんが空港まで送ったんだっけ?
「それでも...本当すみませんでした。私よく確認せずに道路に出ちゃって」
か細い声で弱々しく話す様子に、まだ心底安心できていない俺は、なんていうか。
保護者だよな。
「お前はちゃんと横断歩道を渡っていたよ。信号機が無かったのと花屋のトラックの前方不注意が原因。0:10で相手の非による事故だ」
幸い、相手は逃げたりせず、今回の件については全て補償すると警察にも申し出ている。
「は......ったから...」
ん?
「何か言ったか?どこか痛いか?」
小さな声で聞き取りづらかった。
「あぁ、いえ。意外と大丈夫ですよ」
頭の包帯は痛々しいが、変わらない笑顔が俺を癒してくれる。
なぁ瑞上。
もっと元気になって退院したら。
少しだけ、そばに近付いてみてもいいか?
つづく→