東条side13.
付き纏う代償を、誰が払うべきか。
瑞上の父親と通訳が病院に到着したのは、日付が変わる直前だった。
娘が事故だというのに大きく取り乱すこともなく、俺を見つけた途端、母親同様に仰々しく頭を下げる父親を見るとなんだか胸が痛くなった。
あぁ、瑞上。
お前は本当に家族から愛されてるな。
病院の会議室で、両親が諸々の説明を受けている間を見計らって、ヒョンから、外に出よう、と声をかけられた。
『瑞上さん、とりあえず手術は成功して良かった。少し安心したよ。こんな時なのに、ご両親もしっかりしてる方々だな』
ヒョンがアイスコーヒーを飲み干した。
昼前から降り出した雨は上がり、じめじめとした生温い空気が街中を漂っている。
瑞上が事故に遭った時、もう雨は降っていたんだろうか。
『ちょっと気になることがあってな』
『なに?事故のことで?』
『うん。大学時代のダチが刑事で、今回の事故現場の実況見分に立ち会ったらしいんだけど、事故を起こした車、花屋だったんだ』
え...?
...花屋...?
『確か、キム・ソクジンさんの過去の「彼女」が事故に遭った相手って、彼が花を買った移動販売車じゃなかったか?』
そう...だ...
そうだ、そうだ、そうだ...!
「ヒョン...それじゃ...」
思わず日本語が出る。
『彼、スメラルドの花束、持ってただろう?今日、事故を起こした花屋もスメラルド載せてたらしい。道路にもかなり散らばってたって。オフシーズンで安価になってたのを大量に仕入れたんだと』
そんなのはどうだっていいんだ。
『彼、瑞上さんのことだけが抜け落ちてただろ?瑞上さんの目が覚めたら、病院に許可をもらって脳波を測定した方がいいかもしれない。記憶障害を起こしてる可能性があるよな』
カップの底に溜まった氷をカリカリと噛むヒョンに、俺は勢いよく詰め寄った。
『違うっ!そんなことじゃないっ!そんなことよりもっ!』
俺が手に持っていたコーヒーのカップはあっという間に地面に到達し、派手に中身をぶち撒けた。
『おっ...おい落ち着けよ、測定は急ぐことじゃないし、まずは彼女が目を覚まさないと...』
『過去の「彼女」の命が救われた代償をっ...今度は瑞上がっ...』
抑えられない怒りのせいでヒョンの肩に俺の指が食い込む。
その手を包み込み、ヒョンが、冷静になれ、と何度も言うが耳にも心にも届かない。
なんなんだ。
一体なんなんだっ!?
なんの関係もない瑞上が、「彼女」の代償を請け負う必要ないだろう?!
あいつ...
あいつっ...
絶対に許さない...