東条side


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花様年華⑦



君の光を感じられるだけで、良かったんだ。




瑞上が婚約破棄騒動から一カ月ほど経って研究所に戻ってきたが、なかなかどうしてダメージを受けたように見えない。


もちろん、こっちへ戻ってくるまでに色々と葛藤があっただろうとは思う。

婚約破棄なんて、ただ事じゃない。

きっと落ち込んでる。

研究業務はこれまで通りこなせても、つらい顔を見せる時がきっとある。


あると思ってたが...


なんか元気だ。


違和感を覚えながらも、彼女が同じ研究エリアにいることが俺の心を穏やかにしていた。

異動先も同じだし、危なっかしい彼女から目を離さなくて済む。



*******


「お前、本当隠し事できないタイプな」


「かっ...隠し事っ!?」


彼女の声が裏返る。

半分カマ掛けのつもりだったが、ビンゴだ。


「部署異動になって慣れないことも多いので必死に仕事してただけですよ。まじめにやってるんです」


いや、そりゃ分かってる。

お前を一番買ってるのは、他でもない俺だから。


「いやぁ...お前が研究に一本気なのはもう院生の頃から知ってるから。俺が言ってるのは...


なんだよ、そのキラキラした指先は。

一体、誰のためなんだ...


「先輩、そういうこと、言ってくるのも見てくるのもセクハラですから」


嫌われ役を担うのは業務上だけで十分だ。


...ま、お前もいい歳だ。身なりに気を遣うようになっただけでも成長成長!」


とは言いつつ、少し意地悪したくなった。

たまたま白衣のポケットに入っていたUSBスティックを彼女のデスクに置いた。


「これ週明けまでにデータまとめといてくれ。月曜朝イチの会議でちょっと必要なんだよ」


いや、ちょっとじゃない。

全く必要じゃない。


「いや、先輩...今日、私、用事がありまして、これを定時までにまとめるのは...


「頼んだぞ、俺の期待の星」


別に彼女は何も悪くない。

俺の勝手なヤキモチで、困らせてる。


でも。

これくらい、許してくれよ。


この研究所で、お前の居心地が悪くならないように、戻ってくるまでに根回し手回ししたのは俺だぞ。

引き継ぎや異動の調整も全部俺がやったんだぞ。


絶対、言わねぇけど。



土曜の昼、瑞上からまとめられたデータが送られてきた。


「やっぱりこいつ...スジがいい」