東条side②-1.
僅かな時間を、大切な人とどう過ごすか。
タイムリープってこんなものなのか?
全く思い通りにいかない。
場所も、時間も、人も。
何もかも思惑から外れる。
デタラメなサイコロに従っているようなものだ。
『叔父さん!これ無理があるよ...なんにも分からないんだよ、俺』
母が事故に遭ったのは、俺が高校二年の秋だ。
俺は修学旅行で地元から遠く離れた地へ訪れていた。
その間に、母は韓国へ帰省しようと、空港へ向かうため乗車した高速バスで事故に巻き込まれた。
俺が事故を回避させるには、母の韓国への帰省を諦めさせなければならない。
どんな言い訳が必要だ?
いったいどのくらい前に戻れば説得ができる?
母さんは俺の話を聞き入れてくれる?
そもそも高二なんて...
母さんとまともに話なんかしてたか...?
いわゆるハーフということもあり、なかなかの反抗期を迎えていた俺は両親と話す時間を削りに削っていた。
母さんが事故に遭ったと親父から連絡を受けた時でさえ、修学旅行先から帰るのを拒んだ。
思えば、その頃から...
ずっと俺は自分のことだけを考えていたんだな...
叔父や親父から話を聞き、次こそは、という気持ちでタイムリープを限界数繰り返した。
それでも結果は出せなかった。
何度やってもうまくいかない。
何をやっても未来に反映されない。
俺は母の事故の知らせを、一体、何度受けただろう。
身も心もボロボロになっていく。
俺も叔父も決着のつかない試合に疲れ果てていたある日、研究所にいきなり母が駆け込んできて、叔父の顔を殴った。
グー、でだ。
『この子の命を何だと思ってるのっ!!!』
母さんの、こんな大きな声、久しぶりに聞いたな...
母にはタイムリープのことは伏せていたが、親父がつい漏らしたらしい。
それで血相を変えて日本からはるばるこっちへやって来たのだ。
母さんにはめっぽう弱い、隠し事のできないダメ親父だ。
叔父は母に土下座させられ、笑いながら謝っていた。
だけど最後に、
『姉さんを救いたい。それだけなんだ』
と言って上げた顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。
母は叔父を抱きしめ、静かに俺に言った。
『少し外に行ってらっしゃい。あそこの公園、この近くにあるから』
母の言う公園は、実はここからそんなに近くない。
母と叔父の実家のあたりだから、歩いていけない距離ではないが...
まぁ、ちょっと時間くれ、ってことだよな。
そろそろ次の季節のページをめくる頃だが、公園まで歩いてくると全身から汗が吹き出た。
この公園...
よく来たなぁ。
母さんと親父と。
叔父さんのことはそのころ、ヒョン、って呼んでたな。
どんな時でも芝生が柔らかで風が気持ち良くて。
どれだけでも、ここで過ごせた。
なぁ。
母さん。
本当にいなくなっちゃうのかよ。
ちょっと早くないか?
だって、これから...
俺がちゃんと大人になって、身を立てて母さんと親父に孝行するって。
もうちょっと待ってくれよ...
まだ俺は...
気付けば俺は、声をあげて泣いていた。
つづく→