37-2.
→つづき
こんな日はトラブルもなく、どうして定時前に仕事が終わっちゃうんだろう。
言われた通り、バス停へ向かって歩いていると既に先輩が立っていた。
「バスの時間まであと1分だった。早く歩けよ」
もう、なんなのよ...
誘っておいてこの言い草。
この人、恋人とかいなさそう。
考えたこともなかったけど。
「バス来たぞ」
「...あれ?」
到着したバスは研究所から私の寮までを行き来する路線だ。
えっ...
なんで...?
「あっ先輩...これ私の...」
言い切る前に腕を掴まれ、一緒にバスに乗り込んだ。
「お前の寮なんか行かねぇよ。何考えてんだ」
「はは...ですよね...」
この路線のバスに、いや、バス自体に他の人と乗るのなんていつぶりだろう。
ジンが研究所まで迎えに来てくれたり、朝は送ってくれたり。
ジンの臨床試験が始まってからもしばらくは一緒に帰って、試験の日はジンが私の出所時間にあわせて来てくれた。
ジンがいた頃...
それはどのくらい前のことだっけ...
車窓からの景色はもう幾度となく眺めたもので何も変わらない。
ただ、色褪せて感じるのは私の心の問題だろう。
「着いたぞ」
ぼーっとしていた。
どのくらい乗ったかな。
私の寮のニつ先の停留所でバスから降りると、そこは観光客はあまり訪れない、小さな飲食店ひしめき合う、いわゆる地元民の集まる街が広がっている。
逆方向には市内有数の繁華街もあったけど...
「今日は好きなだけ飲んで食え。寮まで歩いて帰れる距離だろ?」
そっか!
だからここにしてくれたんだ。
「あっ...ありがとうございますっ」
なんだかんだ優しいな、先輩。
「いま俺のこと優しいなぁ、なんて思ったろ?」
っ...
心を読むなっ!
「思っ...いましたよ、思いましたっ」
ここで隠したって何にもならない。
「おー素直素直。素直ついでに今日は奢ってやるよ」
「うっそ、先輩がっ!?」
思わず本音が出た。
「...素直過ぎるな、一杯目はお前が奢れ」
なんだそれ。
「なんですか、それ」
なんか笑っちゃう。
つまんないのに、笑っちゃう。
「やっぱ肉だよなー」
「はいっ!」
お肉だ、お肉!
先輩の奢りなんだから美味しいの食べなくちゃ!
つづく→