27.


ねぇジン。

声をかけることすら難しくなってしまったね。




『ということで、今回の試験は72時間となる。前例がないわけではないがごく少数だ。それでも今までの試験となんら変わらない。被験者の安全第一。いつも通り気を引き締めて試験にかかろう』


ジンの10回目のタイムリープ試験前。

この試験に関わる、私を含めた助手たちに東条先輩が説明した。


『ちょっと長いからなぁ。交代も増えるし、申し送り事項に漏れがないよう気をつけろよ』


『はいっ』


みなで声を合わせて返答する。

ほとんどの助手たちが、長時間の試験を初めて経験する。

少し緊張した面持ちだったが、東条先輩が一人ひとりに声をかけていくうちに、助手たちがやる気をみなぎらせていくのが分かった。


「先輩...


「何も言うな。とりあえず72時間、無事に終わらせよう。何があってもなくても。起きても起きなくても。俺たちが彼を守る。そうだろ?」


黙って頷く私の肩をポンと叩き、先輩がニコッと笑う。


「肩の力、抜けよ」


そうだ。

今はジンの安全の無事を一番に考えなきゃ。


ジンが試験室に現れると、一層空気が張り詰めた。


ジンの試験に参加している助手たちは、ジンが一度のタイムリープで過去を繰り返し経験している可能性が高く、さらにそれをレポートには記述していない、ということも知っている。


好奇な視線を送る者もいたが、すぐに先輩に根元から断ち切られ、試験室を追い出されてしまった。


被験者のプライバシーは守られなければならない。

その被験者の命を預かっている立場の私たちは、どんな理由があれ被験者をおもしろおかしい「ネタ」として扱ってはいけないのだ。


助手が室外に出されたことで、勘の良いジンは全てを悟り、笑顔を引っ込めた。

無論、私の前で見せられるものではなかったと思うけど。


『みんな、10回目の試験だが、回数は関係ない。しっかりやっていこう』


先輩が改めて場を引き締めた。


ジンは慣れたようにベッドへ横たわり、過去への旅の準備を進める。


私は...

いつも通り手を握って声をかけるのかな?

それって私でいいのかな?


迷っているうちに、ジンが先に合図した。


『では、よろしくお願いします』


助手が私へ視線を送ってくれたが、小さく首を横に振るしかなかった。


睡眠導入剤の吸入が始まり、30分もしないうちに正常化した。


とうとうジンは一人で過去へ行ってしまったのだ。