25.
ねぇジン。
私はどうすればいい?
ジンは何を考えてる?
過去を変えると、未来でその代償を払うことになる。
9回目のタイムリープで、その恐れていたことが現実となった。
ジョングクが車に轢かれてしまう事故が起きたのだ。
ジョングクはビルから転落し、命を落とすはずだった過去が変えられ、救われた。
だが、消える予定だった命について、誰かがどこかで代償を払わなければならない。
その代償について、今回ジョングク自らの命で辻褄を合わせたということになってしまった。
試験は48時間を待たずに強制終了、覚醒させられたジンはひどく狼狽し、困惑していた。
『僕のっ...僕のせいでっ...ジョングクッ...ジョングクーーッ!!』
過去は簡単には変えられない。
我々が生きる摂理の中には、常に、ある一定数の命とそれらにまつわる出来事が整然と並べられている。
その数や形を変えるのは容易なことではないのだ。
それでも。
生きていくために、過去を受け入れるためにタイムリープする。
ベッドにうずくまるジンを支えながら、計測機器をひとつずつ外していく。
結局あれからジンとは会わないまま、リリーフピリオドを消化し、今回の試験に至った。
私は、私の嫉妬心を飼い慣らすことができず、ジンにそれをぶつけることもできず、燻った気持ちを抱えたまま、今日の試験を迎えたことを後悔した。
試験室は気付けばジンと私の2人だけになっていた。
『ジン...大丈夫?』
隣に座り、ジンの広い肩をさすりながら、声をかける。
『大丈夫だよ...』
顔を背け、私の手のひらからするりと抜け出すとジンは続けた。
『一人に...してもらえるかな...』
え...
そんな...
いや。
大人気ない態度をとってしまったのは私の方だった。
ジンは話してくれようとしたのに、耳を貸さなかったのは私だ。
怖くて、自信がなくて、どうしたらいいか分からなかった。
それでも。
向き合う時間を少しでも作るべきだった。
『ジン...ジョングクさん、次のタイムリープで助けなきゃね。絶対大丈夫。それにまだテヒョンさんも...』
『ヌナには関係ないよっ...』
ジンの吐き捨てるような言い方で私の体はすっと温度を失った。
ジンを傷付けてた。
自分を守るばっかりでジンを無視してた。
『ごめんなさい、ジン。あと10分したら検査室へ引率する助手が来るから...短い時間だけど...』
返事はなかった。
できるだけ静かに部屋を出て扉を閉める。
ふぅぅっ...
息が止まってたと思うくらい、ため息が大きく出た。
「どうしてこうなっちゃうんだろ...」
ジンはジョングクを救うために、10回目のタイムリープを急ぐだろう。
リリーフピリオドの短縮を打診してくるはずだ。
その時にちゃんと謝って、話をしなきゃ。
ジンから私へ直接連絡が来たのは、この日から4日後だった。
『明日、10回目のタイムリープです』
トークアプリでこれだけ。
レポートは東条先輩宛に提出されてて、リリーフピリオドの短縮も私の知らない間に調整されてた。
ジン...
何を考えてるの?
もう私は必要ないってことなの?
一人で過去へ行って、帰ってくる時も一人になっちゃうよ?
もしかして...
...一人じゃないの?
心に誰がいるの?