23-2. save Hoseok and Jimin #3


つづき


助手の一人が試験室の外まで私を追いかけてきた。


『瑞上さんっ...


彼女が入所してから、長い付き合いになる。

これまで数え切れないほど試験を共にしてきた。


『何があったんだろうね?もう...私もどう接したらいいか』


口元から漏れる苦笑いが本当に苦く感じる。


『管理士の話がどのくらいかかるか分かりませんが、被験者には説明した上で、待機室で瑞上さんを待っていてもらいましょうか?』


彼女の精一杯の心遣い。

申し訳ないなぁ...

彼女もジンの様子がおかしい、って感じたんだろうな。


『うーん...ふふ。大丈夫。先輩の話長いから、どれだけ待たせることになるか分からないしね。彼のタクシーの手配だけお願いできるかな?』


ごめんね、こんなことを頼んでしまって。


『もちろんです!...あの、もし気が変わったら内線鳴らしてくださいね』


透き通るほどの色白な顔の横で、彼女は所内専用のスマホを揺らす。

優しすぎて何もかも頼りたくなっちゃうよ。


『鳴らさないよ!早くジンを帰して、あなたも帰って。明日の朝一番で会議あったでしょう』


『あっ、そうやった...


彼女の出身地の方言が出る。

私のせいで、無理をさせてはいけない。

彼女には彼女の仕事がたくさんあるのだ。


『また明日ね。ありがとう』


私がぺこっと小首をかしげると、彼女は仰々しくお辞儀し、試験室へ戻っていった。


さー...

東条先輩の話ってなんだろなぁ...




東条先輩のデスクに近寄るとタブレットでオランダ戦の衛星中継を観ていた。


「すみません...始まっちゃいました?」


小声で先輩の様子を窺う。


「いや、開始時間、間違ってた。もう始まってたわ」


タブレットの角度を調整してチェアに寄りかかり、先輩はあくびをひとつした。


眠いなら帰って観ればいいのに。


「精神病棟に強制入院させられてた友達と、外科に入院してた友達。2人とも無事に連れ出せたって言ってたよ」


先輩が、タブレットから視線は外さず、かなり重要なことをさらりと言う。


「えっ...あぁ...ジミンさんとホソクさん...良かった。作戦上手くいったんだ」


だったら。

あのジンの様子は一体なに?

余計に気になる。

彼女って...


「これ以上は聞いてない。被験者自身、疲れてたみたいだったしな。もちろん家に帰るくらいどうってことないと思うけど」


これ以上は聞いてない...

本当は聞き出すつもりだったのかな。

それとも続きは私から聞いておけ、ってことかな。


「まぁ、あれだ。とにかくお前も無理すんな。試験も半分過ぎて被験者も心の比重が過去に傾きやすくなる頃だからな。明日一日、間空けて会ってみたらどうってことなかった、って話になるから」


デスクの中からスナック菓子を取り出し、封を開けて食べ始める。


大事な話だと思ってるのは...私だけか?


「あの、ありがとうございます、お気遣いいただいて。明後日、話聞いてみます」


「うん。彼のことだからレポートと一緒にお前に会いに来るかもな」


会いに来てくれればいいけど...


なんだろ。


ジンが私に会うのを怖がってる気がする。


そして私も。

ジンに会うのが怖いよ。