23-1. save Hoseok and Jimin #3
ねぇジン。
今、ジンの心の中にいるのは誰?
『キム・ソクジンさん、落ち着いてください、タイムリープ試験は終了しましたよ』
東条先輩が落ち着いた声で話しかけ、助手たちがベッドから転げ落ちそうになるジンの体を支える。
『あっ...あのっ...僕は...』
アラートは止んだが、バイタルチェックの小刻みな音が私の不安を煽る。
『キム・ソクジンさん、今回の試験で脳波に変調が見られました。ケガなどはなさそうでしたが、念のため2時間早く、試験を切り上げました』
先輩の低く、穏やかな話し方にジンが少しずつ冷静になっていく。
『すみません...ちょっと混乱してしまって。過去なのか現在なのか分からなくなってしまって』
私の顔を見たのに、過去か現在か分からなくなったの?
それに彼女って...誰?
『ヌナ...ごめん...僕...』
何を謝ることがあるの?
過去で何があったの?
『おい、水が用意されてないじゃないか』
試験室内の冷蔵庫を開けて東条先輩が呟く。
『いえ、試験前に確認しましたが...』
助手の言葉を遮り、先輩が私に指示する。
『瑞上、悪いが3本ほど持ってきてくれ。試験倉庫の冷蔵庫に冷えたのがあるだろ?』
こんなジンを前に...
私が...
『管理士、私が持ってきま...』
『待って』
ドアに向かった助手を、私はほぼ無意識に呼び止めた。
『私が行きます。ここをお願いしますね』
『...ヌナ...』
消え入りそうなジンの声を背中に私は足早に試験室を出た。
あんなジンを放って試験室から離れるなんて...
でも、今の私には冷静にジンと向き合う自信がない。
冷蔵庫の中にペットボトルが補充されているのを覚醒前に確認している。
正直、東条先輩の試験室の外に出ろ、という助け舟に救われた。
「あの倉庫、まぁまぁ遠いんだよなぁ」
冷えた水が即座に必要でないことは分かっている。
早足で歩くわけでもなく、研究所内を散歩するかのようなスピードで試験倉庫へ向かった。
ペットボトルを抱えて試験室に戻ると、ジンのそばには既に空になったペットボトルが3本横たわっていた。
『ヌナ...あの...』
顔色は悪くないが、バツの悪そうな表情をジンは隠しきれていない。
そんなに長い時間、試験室を空けたわけではないので過去で何があったか、ジンから何か話を聞けたわけではなさそうだ。
『とりあえず、バイタル異常なし。このあと身体検査にうつって問題なければ、そのままご帰宅ください』
東条先輩がジンに伝えるとすぐに私に向き直り、
『瑞上さんには今日の試験のことで話があるから、このあと研究室の私のデスクまで来てください。いいですか?』
と、私の返事を待たずに試験室から立ち去った。
ジンとは一緒に帰るな、ってことだよね...
『瑞上さん、片付けと被験者の検査室への引率はこちらでやりますので、どうぞ管理士のところへ行ってください』
先輩は怒らせたら怖い。
怒っていなくても怖い。
助手たちは気を回してくれたようだ。
『分かりました、ではお願いします。キム・ソクジンさん』
私のよそ行きの声かけにジンの瞳が揺れる。
『遅い時間ですので帰りはお気を付けて。ではレポートお待ちしております』
声も出ない...?
頷きながら計測機器を外されるジンの視線を振り切り、私は試験室を出た。
他人行儀な言葉の裏に潜めた疑念は、ジンにどのくらい伝わっただろう。
つづく→