JIN side④-2
→つづき
あの彼女だ。
恋人にフラれて泣いていた、あの彼女...!
なんで分かるんだろう?
でも絶対そうだ。
彼女だ!彼女だ!
ん?
あの人があの時の彼女だとして、僕は一体どうするつもりなんだ?
ヤーヤー、この前はフラれて派手にやり返してましたね!
僕も同じことされそう...
ヤーヤー、泣いていたので心配したんですよ!
ダメだ、気持ち悪い...
ヤーヤー、あの日から気になって探していたんですよ!
通報されるレベルだ...
声をかけようにも良いアイデアが思い浮かばない。
だって、僕は傷付いた彼女を見て気になってしまっていたんだから。
彼女にとっては思い出したくないことで、こんな僕に話しかけられたら嫌な気持ちになるに決まっている。
何かきっかけがあればなぁ...
いっそのこと、彼女が嫌な人だったらいいのに!
そしたら声をかけずに済む。
当てもなく彼女を探し続けた時間は勿体無いかもしれないが、美談のままモヤモヤだけが残る、というパターンは避けられる。
大きな桜の木の陰から彼女を見守る。
いや、見張る...か?
ともかくガッカリすればいいんだ。
そうすれば忘れられる。
...僕は彼女の何を思い出として記憶してるんだ?
自分の頭と心がそれぞれ別のことを考えて、それぞれに否定し合っている。
なんだかおかしい。
一人で問答していると、一匹の大きな犬が彼女に近寄ってきた。
それに気付いた彼女は、犬の頭をわしゃわしゃと撫でた。
その姿があまりに自然体で、楽しそうで、かわいくて。
いや、犬が、だよ。
そんな彼女のこと、かわいいだなんて。
大きな犬は体を彼女に預けて、さらに戯れ始めた。
きっと知った顔なのだろう。
少し遠いので聞こえないが、彼女は犬に話しかけているようだ。
とっても自然体で、楽しそうで、かわいくて...
いや、だから犬がねっ!
僕、何をそんなにムキになってるんだろう。
犬の飼い主らしき人がやってきて、彼女は丁寧に頭を下げて挨拶をしているようだ。
しばらく談笑し、撫でられた犬はご機嫌で飼い主と去って行った。
動物好きなんだなぁ。
何話してたんだろう...
いつもこの土手に?
僕が日本に来る前から来ていたのかな。
僕もかなりこの土手に通っているけど、見たことなかったな...
気付かなかっただけなのかな。
犬の背中を見送り、彼女はまた同じ場所へと腰を下ろした。
少し寂しそうに見えた。
そりゃそうだよね、あんな男にフラれてショックなのは当たり前だ。
そうだ、僕の出る幕じゃない。
傷付いた人を優しく慰めるなんて僕には出来ない。
僕は人を傷付けてばかりだから。
帰ろう。
彼女の姿を瞳に焼き付けるかのようにしばらく見つめ、瞼の裏に彼女の姿を映す。
僕は何をしたいんだ?