JIN side-2


つづき


あの彼女だ。

恋人にフラれて泣いていた、あの彼女...


なんで分かるんだろう?

でも絶対そうだ。

彼女だ!彼女だ!


ん?

あの人があの時の彼女だとして、僕は一体どうするつもりなんだ?


ヤーヤー、この前はフラれて派手にやり返してましたね!

僕も同じことされそう...


ヤーヤー、泣いていたので心配したんですよ!

ダメだ、気持ち悪い...


ヤーヤー、あの日から気になって探していたんですよ!

通報されるレベルだ...


声をかけようにも良いアイデアが思い浮かばない。

だって、僕は傷付いた彼女を見て気になってしまっていたんだから。

彼女にとっては思い出したくないことで、こんな僕に話しかけられたら嫌な気持ちになるに決まっている。


何かきっかけがあればなぁ...


いっそのこと、彼女が嫌な人だったらいいのに!

そしたら声をかけずに済む。

当てもなく彼女を探し続けた時間は勿体無いかもしれないが、美談のままモヤモヤだけが残る、というパターンは避けられる。


大きな桜の木の陰から彼女を見守る。

いや、見張る...か?

ともかくガッカリすればいいんだ。

そうすれば忘れられる。


...僕は彼女の何を思い出として記憶してるんだ?


自分の頭と心がそれぞれ別のことを考えて、それぞれに否定し合っている。

なんだかおかしい。


一人で問答していると、一匹の大きな犬が彼女に近寄ってきた。


それに気付いた彼女は、犬の頭をわしゃわしゃと撫でた。

その姿があまりに自然体で、楽しそうで、かわいくて。


いや、犬が、だよ。


そんな彼女のこと、かわいいだなんて。


大きな犬は体を彼女に預けて、さらに戯れ始めた。

きっと知った顔なのだろう。

少し遠いので聞こえないが、彼女は犬に話しかけているようだ。

とっても自然体で、楽しそうで、かわいくて...


いや、だから犬がねっ!


僕、何をそんなにムキになってるんだろう。


犬の飼い主らしき人がやってきて、彼女は丁寧に頭を下げて挨拶をしているようだ。

しばらく談笑し、撫でられた犬はご機嫌で飼い主と去って行った。


動物好きなんだなぁ。

何話してたんだろう...

いつもこの土手に?

僕が日本に来る前から来ていたのかな。

僕もかなりこの土手に通っているけど、見たことなかったな...

気付かなかっただけなのかな。


犬の背中を見送り、彼女はまた同じ場所へと腰を下ろした。

少し寂しそうに見えた。


そりゃそうだよね、あんな男にフラれてショックなのは当たり前だ。


そうだ、僕の出る幕じゃない。

傷付いた人を優しく慰めるなんて僕には出来ない。


僕は人を傷付けてばかりだから。


帰ろう。


彼女の姿を瞳に焼き付けるかのようにしばらく見つめ、瞼の裏に彼女の姿を映す。


僕は何をしたいんだ?