JIN side-1


あの日から、街を歩く目的が彼女を探すためになっていった。

そのこと自体が、なんだかじれったい。

当たり前だけど会えなくて、なぜか不安になる。



あの日から10日あまり。


それまで1ヶ月ほど、いくつかの街や押さえておくべき観光地を楽しみ、初心者としては上出来だと自負していた。


そのせいか、あの彼女のことばかり気にしている。


もう泣いていないかな。

元気にしているかな。

あんな男のことはさっさと忘れた方がいいんだ。


ん?

僕は彼女のなんなんだ?

彼女は僕の...


さっさと忘れた方がいいのは、あの日のことだ。

まだまだ僕にはやりたいことがあるんだから。



朝の6時半。

ちょっと早く目が覚めてしまった。


手元のペットボトルに入った水を飲み干し、散歩へ出る準備をした。


『彼女のこと気にし過ぎて桜のことが後回しになっちゃったじゃないか』


投げた空のペットボトルがゴミ箱の縁に弾かれた。


土手へ通い忘れていた自分のことを彼女のせいにしたバチが当たった。


今日の空色は少しグレーだ。

晴れたり曇ったり。

本格的な春が来るまでのこの不安定な気候を三寒四温というらしい。


『今日は三寒の方なんだな』


桜の蕾のことが気にかかり、土手まで早足で歩く。


『もうすぐだな』


大丈夫、蕾はまだ固い。

蕾に指先でちょん、と触れた瞬間、足元の砂を巻き上げる様な強い風が吹いた。

その風は強さの割には暖かく、僕の体を優しく撫でていった。


砂埃が落ち着いた頃合いに薄目で周りを確認すると、早朝で誰もいないと思っていた土手の草むらに一人の女性が座っていた。


...うそでしょ...


つづく