JIN side


僕なんかが幸せになっちゃいけないんだ。

仲間を裏切った僕なんかが。




最初は誰が言い出したんだったっけ?


NJ『あ〜!どっかパーッと行きたいよなぁ』

JM『毎回ここだとさすがに飽きちゃうよね』


いつもの場所。

いつものメンバー。

いつもの遊び。


僕はこの変わり映えしない風景が好きだ。

とても安心する。

空っぽな日常から離れて、僕たち以外の時間が止まっているかの様な錯覚さえ起こす。


JK『ヒョンは海外とかたくさん行ってるでしょ?』

HS『アメリカ〜ドイツ〜シンガポール〜日本は?』


『日本にも行ったこと、あるよ。すごく良いところだった』


YG『さっすが』


ユンギがソファに寝転びながらキャンディをくわえる。


TH『日本だったら行けるかな?時差ないし』

NJ『金どうすんだよ』

JM『安いところに泊まればなんとかなるんじゃない?』

JK『バイトしようよ!ツテ当たってみる!』

HS『いいじゃんいいじゃん〜金貯めて行ってみようぜ、日本!』

TH『すき焼き食べたい!』


僕たちの話は、風船のように膨れ上がってもすぐに萎んでいくのが常だったから、僕は本気にしていなかった。


でも次に会った時、


『ジョングクがバイト見つけてきたよ。日本に俺らが行くとしてどのくらい費用がかかりそうか、計算してくれないか?』


とユンギが言うので驚いた。


少し遠くの海に遊びに行くのだって、その場の雰囲気やノリで決めてばかりだったのに。

日本への旅行を前向きに考えているんだな。


『うん、分かった。ジミンが安い宿でいいって言ってたよな。いいところ探しておく』


『ありがと。俺たち、自分の分は自分で出すから』


僕が旅費を負担することのないよう、ユンギに釘を刺された。


そうだよな。

この旅行は、僕がお金を出したら何の意味もなくなるんだろう。


もう数え切れないくらい一緒に夜を明かし、朝日を浴び、隣で眠り、目覚めたらまた目が合う。

そんな毎日を過ごしていたけど、計画的に何かを進めるって初めてじゃないかな。


なんだか...

胸がむずむずする。


帰ったらすぐにホテルを調べて、食事をする店もいくつかピックアップして...

みんなは海外初めてかな?

パスポートを発行する時は僕もついて行こう。

用意しておいた方がいいものを書き出してみるか。

僕が持ってるもので貸せそうなものは買わなくていいし...


旅行についての話をする時は、みんなおかしいくらいに優等生だった。

メモをとったり、分からないことを質問したり。


なんだよ、みんな。

話聞けるんじゃん。

学校でもそうしてればいいのに。


でも...

みんなが学校で優等生だったら。

僕は出会えてなかったんだろうね。


皮肉だな...




日本への旅行が2週間後に迫り、準備もほぼ完了したある日。


教頭と学年主任に呼び出された。


そこで僕は取り返しのつかない失敗をしてしまった。




父親の半ば強引な斡旋でアメリカへ留学する間際、最後に会ったのはユンギだった。


『おい...大丈夫か?ジョングク庇って退学になったって。一体何したんだよ』


『一体何したって...それはこっちのセリフなんだよっ!』


ユンギは手に握っていた何かで歩道の壁に深い傷をつけた。


『他に...言うことねぇのかよ』


呆れた吐息と共にユンギが睨みつける。


『もうお前には二度と会わねぇよ、俺たちは』


俺たち...

そうか、ユンギはみんなの代表で俺に会いに来たんだな。


『信じてたのに...


そう言い残して、ユンギは手の中のものを投げ捨て、去って行った。


家の鍵じゃない...ピアノの鍵...か?


僕はユンギの捨てた鍵を拾い、握り締めた。


『仕方ないだろ。僕だってお前たちだってまだ学生なんだ...


この時はただのすれ違いによる仲間割れ、のような意識だった。


2年後にようやく、僕は自分のしたことの重大さを知り、苦しむことになる。